僕らが部屋に入ると母が床に突っ伏し、その前に父が仁王立ちしていた。二人とも肩で大きく息をしていた。母が、僕らに気付いたのか顔を上げた。母の右頬は痛々しく充血して赤くなっていた。 「駄目よ。たくちゃん!由紀!表に出てなさい!」 母が叫んだ。僕…
妻にすっかり荷造りしてもらい十数年暮らしたマンションを出た。手には小さなボストンバッグ一つ抱えているだけだ。その気楽な姿は、離婚などという深刻な事態を連想させないようだった。通路で擦れ違った顔見知りの老婦人から「あら!どこかにご出張?」な…
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