2006-05-01から1ヶ月間の記事一覧

こんな下品な女のどこがいいのだろうと思うのだが、留美子は真奈美と大の仲良しだ、それどころか尊敬している節すらある。最近は真奈美の下品な言葉遣いを真似したりする始末だ。 「おい、なんか部活でもやった方がいいんじゃねえのか?」 真奈美が薄ら笑い…

という訳で留美子と市太郎は異父兄妹だった。彼女が生まれた時、母は美容院を始めたばかりだった。成功の予感すら感じられないほど小さな店だったが、それでも家賃や、設備類の購入費は馬鹿にならなかった。借金の返済に四苦八苦していたのだ。思い返せば貧…

「あなた細かいわねえ。お相撲さんってもっと豪快だと思ってたわ」 「誤魔化すな!いったい留美子って誰だ?」 「あなたの血を分けた妹よ」 「じゃ!」 「お父さんは、別の人です」 市太郎は膝の力が抜け、その場にしゃがみこんだ。すると、頭上から母の声が…

普通の高校生活をエンジョイする為には、少し太り過ぎているような気がしていた。ダイエットしなければと思うのだが、相撲部屋に居た頃のドカ喰い癖はなかなか直らない。 「このデブ!少し動かないとますます太るよ」 妹の留美子が罵るように言った。勝手に…

「それとおいらを追い出すこととどんな関係があるんだい?」 「おれはあの日、自分に誓いを立てちまったんだ。一生結ばれなくても麗を幸せにするってな。だからおめえを・・・」 親方の言葉を遮るように市太郎は立ち上がった。その身体からは湯気が立ち上っ…

「言い訳がましい言い方はしないでくれよ」 「そう言わずに聞け。まずな、おめえの言う通り最初に会ったあの日、おめえに声を掛けたのは、おめえが美久ちゃんの子供だったからだ。おめえは忘れちまっただろうが、おれはおめえをもっと小せえ頃から知ってる。…

「毎朝早起きしちゃあ稽古して、それから高校に行って、帰ってきてからまた稽古、それから全員の飯を作って、後片付けをしたら勉強だ。よくやったよ」 「勉強は親方がやれって言ったんだよ」 「そうだ。今時、馬鹿じゃあ相撲は取れねえ。それにしてもよくや…

すっかり母の引っ掻き傷だらけになった親方とともに市太郎は帰路に着いた。歩くほどに太陽に照らされ親方の禿頭には脂汗が滲んだ。まだ春とはいえ今年は日差しが強い。まるで夏まっさかりのようなきつい日差しが照っている。おかげで親方の禿頭からは止め処…

魁座亜皇関は幸いむち打ち症で済んだが最低、二場所の休業は免れぬ状態だった。生意気な魁座亜皇関のことを悪く言っていた親方も、看板力士の休業とあって塞ぎこんでしまった。また、あれほど思い上がっていた魁座亜皇関も、この一件で借りてきた猫のように…

「なんでえユニホームなんて無くったっていいじゃねえか。なんならパンツ一丁で走ればいい。相撲取りなんてパンツより小せえものしか付けていねえ」 「まあ、相撲取りはまわしだけだもんね。よく考えるとあれ、恥かしいなあ。だってお尻丸出しだよ」 「鍛え…

「一番に?本当に?出来るの?」 「無理だ」 「なんだやっぱり。おじさん、俺をからかいに来たのかい?」 「たった一週間の努力で一番は無理さ。お前のクラスにだってもっと長い時間、何年も走る練習をしてる奴等だっている訳だからな。野球部とかサッカー部…

「コノテイドノ稽古でコワレルクライナラ、将来にキボーは無いよ。ヒャッヒャッヒャッヒャ」 魁座亜皇関は、到底実力者と思えぬほどの卑屈な笑い声を上げながら、繰り返し市太郎の背中に踵を落とした。 市太郎は薄れ行く意識の中で、これで自分の力士生命は…

その時、突然二人の耳をつんざくほどの轟音が聞こえた。まるで国際線の旅客機のジェット噴射口が耳元で唸りを上げたようだった。二人が振り向くと、全身汗まみれの巨人が畳の間の入り口に立っていた。 「オヤカタ。稽古に顔を見せずにナニシテルノカト思った…

---------------------------------------------- ドイツワールドカップ、ジーコジャパン代表選手決定おめでとう! 大会での健闘を祈念してサッカー小説「相撲ストライカー」を書きました。 ---------------------------------------------- 「茶髪じゃな、…

「でもさ、今日はさ、特別なんだよ。淳司がさ、新しいゲームソフトを買って貰ったんだ。TVで宣伝してる奴。凄く面白いんだって。ほら、うちお金ないからゲーム機買ってもらえないだろ。だからさ、こういう機会に淳司の家でやりたいんだよなー」 僕はまだゲ…

「あんな奴の言うことまともに聞くんか?」 「いいじゃない。試しに行ってみれば。他に行くとこも無いし」 「やだよ淳司の家でゲームやるんだ!」 「何がゲームよ!いい?裏山の神社に天狗が出るのよ!」 「馬鹿じゃねーの。天狗なんている訳無いだろ!髭お…

由紀の話はこうだ。昨日の夕暮れ、由紀が玄関の鉢に水を汲れてると髭おやじが後ろを通った。気付いたが気付かない振りをして水を汲れていた。すると彼はこちらも振り向かず独り言のように囁いたらしい。 「明日の五時くらいに、神社に行ったらいいなあ」 由…

その日、小学校の校門を出てから僕ら二人が向ったのは家と反対の方向だった。いつものことだが由紀が僕の腕を握って引き摺るように歩いた。僕は初めどこに行くつもりなのか訊いてみようと考えたが、どうせまた街のはずれのどこか、代わり映えしない所へ行く…

幾ら兄妹とはいえ、こう年がら年中一緒にいる必要は無いではないか、そう僕は思った。僕は男の友達とゲームをして遊ぶ方がずっと楽しい年頃なのだ。由紀だって何か別の愉しみ方を見つければいい、僕は心の中でそう思ったが強引な由紀には逆らえなかった。僕…

◇記憶◇ 「たくみー!どこー?」 いつものように由紀が僕を呼ぶ声がした。僕はその声から逃れようと逃げ道を探した。が、それはほぼ不可能だった。広い玄関の先はなぜか狭い出口になっているのだ。由紀はそこに陣取り僕を待ち構えていた。 どうしよう?と悩ん…