2010-11-01から1ヶ月間の記事一覧

◇ 「目ぇが覚めたかや?」 老婆の声でわたしは目覚めた。 「まったく突然『うん、うん』唸り出すからびっくりしたで。こっちゃ久しぶりに酔って気持ちよーく寝てたっつーのによ」 わたしは布団の中にいた。婆さんが敷いてくれたのだ。婆さんは文句を言いなが…

◇ 目を覚ました時、僕がいたのは自宅の布団の中だった。隣りに由紀もいた。 後で聞いたことだが大人達が探しに来てくれたのだ。遅くになっても帰らない僕らを心配し、大勢で探しに出たのだ。神社に探しに来たのは髭おじだった。僕らに鳥居の下でのおまじない…

◇ 「誰か助けに来てくれないかな?」 僕は不安になった。こんな暗い場所に来たことが無かった。 ついさっきまで月明かりに照らされいた境内が途端に真っ暗になったのだが、これは月が雲に隠されただけではない暗さだった。普段は、田舎町とはいえ街灯や家の…

◇ 辺りが十分に暗くなるのを待っていたように月が山の麓から顔を出した。月は濃い橙色に輝き、いつもに増して大きく見えた。 「やった!満月だ」 由紀が小さく叫んだ。 僕らはかくれんぼにも鬼ごっこにも疲れ果て、社の木の階段に並んで腰を降ろしていた。ど…

◇ それはかつて何度も見た光景だった。いや、正確に言うと僕は毎日それを見ていたんだ。 「行って来るね!」 由紀が明るい声を放った。母が、優しい笑顔で僕らを見送った。もう6年もそんな光景を見ているというのに、僕はこの母娘のこんな姿をみるのが好き…

◇ 「さあさあ、上手く揚がったで」 今時珍しい卓袱台の上に置かれた皿の上には、コロッケがこれでもかというくらいに乗っていた。 「腹いっぱい喰っとくれ」 先ほど病院で遅い昼食を食べたばかりだった。第一、コロッケの量は若者が食べるほどのものだ。 「…