2010-02-01から1ヶ月間の記事一覧

◇ 「由紀、由紀」 月が山裾から顔を出した時、僕らは鳥居の下に並んで座っていた。僕は由紀に肘鉄を喰らって目を覚ました。 「痛ててて。何するんだよう」 「あんたが寝惚けて人の名前呼ぶからよ」 「え?誰かの名前呼んだ?」 「ふん、馬鹿ねえ。ホントその…

こんなことを考えているなんて、あの会社のみんなに知れたら大変なことになるな。裏切り者の誹(そし)りを受けるだけでは済まないかもしれない。しかし、自分でも驚くほど早く会社と無関係な人間になっていた。 未練がましく会社のことを考えていること自体…

「お客さん。どうかしましたか?」 タクシーの運転手が不愉快そうに訊ねてきた。自分のことを笑われたと思ったらしい。まったく人間というものはどこまでも自分という狭い世界で生きているものだ。目の前で起きている全ての事柄が自分を中心に回っていると勘…