2009-01-01から1年間の記事一覧

僕らが部屋に入ると母が床に突っ伏し、その前に父が仁王立ちしていた。二人とも肩で大きく息をしていた。母が、僕らに気付いたのか顔を上げた。母の右頬は痛々しく充血して赤くなっていた。 「駄目よ。たくちゃん!由紀!表に出てなさい!」 母が叫んだ。僕…

妻にすっかり荷造りしてもらい十数年暮らしたマンションを出た。手には小さなボストンバッグ一つ抱えているだけだ。その気楽な姿は、離婚などという深刻な事態を連想させないようだった。通路で擦れ違った顔見知りの老婦人から「あら!どこかにご出張?」な…

そんなことを考えているうちに、妻はせっせと私の荷物をまとめ始めていた。離婚して、今日別居する私の荷物をである。つくづく女という生き物は強いものだと思う。様々な自分の思いを帳消しにしてまでも、今自分が為すべき事に没頭できるのだ。彼女達はそれ…

ずっと自分はスタンダードな社会人だと思ってきたのだ。にも関わらずいつの間にか最低限の生活すらままならない自分がいた。会社が年功序列をやめ能力主義にした途端、私の給料は大幅に下がり始めたのだ。会社は私の給料を初任給そこそこまで下げた。もっと…

◇帰郷◇ どうやら眠っていたらしい。夢を見ていたのだ。しかし、それは夢というより記憶だった。遠い昔の記憶、すっかり忘れていた子供の頃の出来事が今頃思い出されたのだ。もっとも、私がこれから向うのは故郷である。高校を卒業して以来、一度も帰ったこと…

僕は布団に入ってから、今日一日のことを思い出してみた。なんだか変な一日だった。学校で淳司が新しいゲームを買ったって自慢してて、それで授業が終わったらみんなで淳司の家に行く約束をした。その為には由紀から逃れなければならない。しかし結局、掴ま…

僕は身体をすっかり洗い終わると湯船に浸かり、じっと母の白い肌を見詰めていた。それは湯気に当たるとみるみる薄いピンク色に色づくのだ。僕はその変化を見るのが大好きになっていた。それを見るのはゲームより楽しくなっていた。僕はその肌にこっそりと見…

以来、僕ら三人はずっと一緒に風呂に入った。この家の風呂が広かったこともある。家は小さいのに、風呂だけ別の場所から持ってきたような感じだった。だから僕ら三人で一緒に入っても全然狭くは無い。もっともそんなことよりもっと大きな原因があった。それ…

僕は小学校六年生になった今でも母と風呂に入っていた。もちろん由紀も一緒だ。彼女たち二人がこの家に着てからずっとそうなのだ。 彼女たちがこの家に来た時、僕はもう小学生だったから風呂に一人で入るのは当たり前になっていた。小さい頃に母が居なくなっ…

「さ、お夕飯にしよ」 美和は、思い出したようにそう言うと台所に立った。美和は何かに付け穏やかだが、同時に少しトロいところもあって、よく父に叱られていた。でも、僕にとっては彼女のそんなところが可愛らしく思えるのだった。 僕は家に帰ってきて、こ…

小説一覧

わたしのブログが色んなところにあって、 非常に分かりにくいとのご指摘を頂きましたので、 下記に目次を掲載させて頂きます。結構、大変でしたが読んで頂けるなら嬉しいですよ。 ■のだめカンタービレ二次小説 ※全て画面表示は下から順番になっています(分…