幾ら兄妹とはいえ、こう年がら年中一緒にいる必要は無いではないか、そう僕は思った。僕は男の友達とゲームをして遊ぶ方がずっと楽しい年頃なのだ。由紀だって何か別の愉しみ方を見つければいい、僕は心の中でそう思ったが強引な由紀には逆らえなかった。僕は恨めしそうに、小学校の玄関から僕らを見送る悪友たちを見た。悪友達は
「いやー、ご両人!熱いねえ!」
などと囃したてながら由紀と僕の姿を見送るのだった。
 兄妹なのに「ご両人」も無いものだ、と僕は思った。が、由紀と僕は二人とも親達の連れ子だったのだ。小学校に上がるのと同時に、由紀の母と僕の父が結婚した。だから由紀と僕は小学校に上がった年に兄妹となった。つまり、二人は血が繋がっていなかった。だから、兄妹で同級生だったが双子ではない。ちなみに僕の方がたった一ヶ月誕生日が早かったので、兄ということになった。
 そういうことを悪友達はみんな知っていた。そして、小学校も六年生といえば、大人びた関心を持つようになる。僕たち二人を見る同級生たちの視線は、この一年ほどで大きく変化した。由紀と僕の「兄妹だが血の繋がりが無い」という事情に特別な事情、或る意味大人の際どさを感じ取っていたらしい。だから僕と由紀は兄妹とは別の目で見られ始めたのだ。
 しかし僕は由紀に異性を感じたことなど無かった。まるで本当の双子の妹、男の子のように真っ黒で、同い年とはいえ兄の僕を見下したように呼び捨てにする生意気な妹だと思っていた。六年間、寝起きを共にしただけでなく、風呂だってずっと一緒に入って来た。いや、実のところ今だって一緒に入っている。それはまた別の理由があるのだけれど、僕にとっては裸の由紀も服を着ている由紀も特に違いは無かったのだ。
だから僕は皆にからかわれるのが本当に嫌だった。僕もそろそろ女の子の目が気になる年頃になっていた。でも女の子たちはまるで由紀に遠慮するようにぼくから距離を置いているように感じていた。僕は、由紀のお陰で他の女の子に相手にして貰えないよ、などという不満も持っていた。

 悪友達に囃し立てられながら僕らは校門を出た。由紀は僕を逃がさぬよう腕をガッチリ握っていた。僕がまだ諦めきれずに逃げる隙を狙っているのを感じ取っているらしい。
「イタた。痛いよ」
僕は悲鳴を上げた。広い歩道を僕らは腕を絡めるようにして歩き出した。どうせまた街のあちらこちらを当て所も無く歩き回るだけなのだ。ただの暇つぶし。他の同級生たちが塾に通っている時間、僕ら兄妹だけが自由だった。
しかし自由というのは逆に言えば、何もすることが無い、ということになる。だから時間つぶしに街の北側にある裏山とか、田んぼの東側を流れる川とか、合併して廃校になった古い小学校の跡地とか、そんなところを毎日毎日散策して歩くのだった。「探検よ」と由紀は言うが、もうとっくに街中探検し終わってる、僕は心の中でそうぼやくのだった。
 もっとも僕がそれらの全てを嫌だと思っている訳じゃなかった。楽しいことも沢山あるのだ。夏はカブト虫やクワガタを取りに行ったり、秋は街の北側にある小山に登り峰を彩る紅葉を見る、冬は雪が降った後、山の斜面に大き目のビニール袋を持っていってソリをする。春は晴れた日に小山の南西斜面の草地で昼寝をするのが気持ちいい。ただ、毎日のように付き合わされるのには閉口した。お陰で僕らは、今や街の隅々まで自分の家の中と同じくらいによく知っていたのだ。
 一度由紀に、何故そんなに毎日街中を歩くのか?と訊ねたことがあった。すると由紀は
「勿体ないんだもの」
と答えた。僕にはよく分からなかった。僕はむしろゲームをしたり、街中のゲームセンターをうろつく時間がなくなる方が勿体無いんじゃないかって思った。
「小学校の時、この街に住んでいたんだってずっと憶えていたいの。だから、しっかり憶えていられるように、ずっと幾つになっても憶えていられるように何度も見ているの。歳を取った時この街を忘れてしまったら寂しいでしょ。いつまでも今のことを憶えていたいのよ」
僕には由紀が何を言っているのか理解出来なかった。「へえ」と相槌を打ってみたものの、まるで明日にも死ぬ年寄りのようなことを言う由紀が理解出来なかった。念のため僕は由紀の顔を覗いてみた。しかし特に昨日とは変わらない気がする。一昨日とも、多分半年前とも、去年とも違わないように見えた。違わず健康的に見えるから、きっと不治の病で死ぬなんていうテレビドラマみたいなことは無いだろうと思った。でも、変わらぬ毎日の幸福を気付かずにいたのは僕の方だったのだ。明日しか見ていなかった幼かった僕には、由紀の気持ちが分からなくて当然だったのかもしれない。<広告>
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