その日、小学校の校門を出てから僕ら二人が向ったのは家と反対の方向だった。いつものことだが由紀が僕の腕を握って引き摺るように歩いた。僕は初めどこに行くつもりなのか訊いてみようと考えたが、どうせまた街のはずれのどこか、代わり映えしない所へ行くんだろうと思い、訊ねるのをやめた。今、歩いてる方向からすると街の北はずれにある裏山に向っているに違い無い。山道でも登るのだろう、と僕は推察した。そんな僕の心中を察したかのように由紀が口を開いた。
「今日は、裏山の神社に行くのよ」
「裏山?何しに?」
 僕にすればほぼ予想通りの目的地だった。まあ山のてっぺんまで登ることを考えれば、中腹にある神社までなら楽なものだと思った。ただ、あんまり予想通りだっただけにがっかりもした。やっぱり面白くなさそうだ。まったく由紀の奴は、よく飽きないものだと僕は半ば呆れていた。同級生たちは快適な部屋でゲームを楽しんでいるというのに。街中のゲームセンターにでも行くと言うならともかく裏山とか街の南を流れる川沿いとか、そんな辺鄙なところばかり行きたがる由紀の気が知れなかった。気候の暖かな頃ならそれでも良かったが、もう秋も終わりに近付いている。そろそろ風の中に冬の寒さが混じり始めたこの時期に、神社までとはいえ山登りは流石に勘弁してもらいたいと思った。
「えー?やだよう裏山なんてー」
「なんで?」
「だって暗いし陰気だし、昼間でもお化けが出そうじゃない」
「ふふふ、本当に出るのよ。それが」
 由紀が悪戯っぽく笑った。
「出るんだなー。これが本当に」
「出るって何が?まさかお化け?」
「馬鹿ね!お化けなんて出る訳無いでしょ」
「じゃ、何が出るの?」
「お化けよりもう少し現実的なものよ。天狗!」
「天狗ー?」
天狗がお化けより現実的だという理屈がよく分からなかった。
そう思うと僕はまた由紀に付いていくのが億劫になった。億劫になったというより、やっぱり淳司の家へ行きたかった。新しいゲーム、それも簡単には手に入らない発売したばかりのゲームだ。淳司はこの間の日曜日、それを親に買ってもらった。
「すっごいんだぜ」という淳司が自慢下な口ぶりが思い出された。放課後、みんなで淳司の家に行こうという話になって僕もその仲間の一人に入ったのだった。僕はもう授業が終わるのが待ちきれないほど、それを楽しみにしていたのに。その計画が由紀のお陰で無しになった。その理由が天狗探しとは。僕は急に腹立たしくなってきた。
「天狗なんている訳無いじゃん」
「それがいるんだって。髭おじが言ってたのよ」
「髭おじ?」
髭おじとは近所の得体の知れないオッサンだ。顔中髭だらけの汚らしい中年男。働いているのかいないのか、いるとしてもどんな仕事をしてるのか近所の誰も知らなかった。分かっているのは怪しいということだけだった。だから近所の誰も彼に構わない。いつもは家の中に引っ込んでいるが、たまに天気がいいと、今時珍しい着流しで散歩している。角の家の婆さんは「ありゃ、作家くずれかね」と馬鹿にしていた。そんな髭おじから由紀は天狗の話を聞いたのだという。


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