由紀の話はこうだ。昨日の夕暮れ、由紀が玄関の鉢に水を汲れてると髭おやじが後ろを通った。気付いたが気付かない振りをして水を汲れていた。すると彼はこちらも振り向かず独り言のように囁いたらしい。
「明日の五時くらいに、神社に行ったらいいなあ」
由紀は自分に言っているのかそれとも本当にただの独り言か分からなかったが、なんとなく気になったのでこっそり髭おじの方を振り返ろうとする、と驚いたことに髭おじは由紀のすぐ後ろにいたのだ。
「ひいい!」
「怖がらんでもいい」
怯える由紀の頭を撫でながら髭おじが見詰めてきたと言う。由紀はその時、初めて髭おじの顔をまともに見たが、よく見ると優しそうな感じだと思ったという。
「明日の五時くらいに、神社に行ったらいいなあ」
とまた髭おじが言った。
「面白いことがあるかもしれんよ」
「面白いこと?」
「ああ」
「何?面白いことって?」
「ああっと。そう、て、天狗。天狗だ、天狗が出よるぞ」
「天狗ー?」
「ああ、天狗だ」
「嘘!」
「嘘じゃない。本当に天狗が出る」
「だって髭おじ最初、なんて言おうか迷ってたじゃない」
「あ!ああーん。いや、そんなこと無いぞ。初めから天狗が出るって教えてやろうと思ってた」
「へえー、信じらんない」
「信じるものは救われる。疑う前にどうだ?明日、行ってみたら」
「まあ確かにね。そうね。じゃ、行ってみるわ。他に行くとこも無いし」
「そうそう、モノは試しだ。子供のうちに色んなことを試しとくと立派な大人になるぞー」
「髭おじに言われても信憑性無いわ!」
「ったく!可愛くねえ娘だの!」
「大きなお世話ですー」

「と、いう訳よ」説明し終わったというように由紀は言った。
「という訳」も何もあるものか、ただでさえアテにならない髭おじから聞いた話はもっとアテになりそうも無いものだった。こんな話を真に受けて裏山に行くというのか?こんなことなら下駄箱から全力疾走で逃げれば良かった、と僕は思った。淳司の家まで逃げおおせれば一回や二回はゲームが楽しめたかもしれない。
もっとも由紀はクラスでも一番足が速い、僕より何倍も足が速いのだ。だから校門を出るか出ないかのところで簡単に掴まってしまったに違い無い。仮に校門から外に出ることが出来ても、悪友達が面白がって由紀に逃げた方向を教えるに決まってる。だからどの道、僕は由紀に捕まる運命にあったのだ。そして、そう思って諦めて、由紀に連れられてここまで歩いてきて・・・・ああでも、こんな馬鹿馬鹿しい話を聞いたら、僕はまたゲームのことが頭に浮かんだ。諦められなくなってきた。何が髭オジだ。天狗?馬鹿馬鹿しい!そんな風に思った僕は思い切って由紀に食って掛かった。


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