「でもさ、今日はさ、特別なんだよ。淳司がさ、新しいゲームソフトを買って貰ったんだ。TVで宣伝してる奴。凄く面白いんだって。ほら、うちお金ないからゲーム機買ってもらえないだろ。だからさ、こういう機会に淳司の家でやりたいんだよなー」
僕はまだゲームの話をしていた。既に山門を潜ったのに、まだ諦めが付かなかったのだ。由紀の顔が少し悲しそうに歪んだように見えた。僕がそう思った次の瞬間由紀が言った。
「分かった。いいわ、淳司の家に行って」
普段は僕が折れるまで自分の主張を通す由紀が、何故か今日は自分から折れた。僕は内心首を傾げた。だが、既に僕の頭の中はゲームのことでいっぱいだったから、そんなことを考えている余裕は無かった。
「じゃあね、おれ淳司の家に行く」
僕はそう言い残して駆け出した。背中に由紀の視線を感じたが、敢えて無視した。山門をくぐる時、仁王が目の端に入った。何か仁王が自分を怒って睨み付けている感じがしたが心の中で目を瞑って無視した。由紀の気が変わる前に、由紀の前から姿を消そうと思ったから、僕は全力で駆け出した。このまま淳司の家まで全力疾走で行こうと決めた。しかし、百メートルくらい走ったところで、少し気になったので振り返ってみた。走りながら振り返った杉林の間からこっちを向いて立っている由紀が見えた。いつもの由紀なら全力で僕を追ってきて、自分の探検に無理矢理付き合わせようとするのだ。それが今日は何故か追って来ない。それに、何故か由紀の立ち姿が悲しげに見えた。僕は走る速度を落とし、やがて立ち止まって由紀を見た。すると由紀が何か叫んだように見えた。しかし、道路と荒地の間を走る線路に電車が走ってきた。その音で掻き消され、まるで聞こえなかったし、この距離ではもともと聞こえなかったかもしれない。僕は少し迷ったが、今日が特別な日である根拠が無かった。きっと由紀は何か別のことで気を落としているだけだろう。そう思った僕は、僅かに後ろ髪が引かれる思いがしたが、それを振り切って走った。走って走って気が付くと淳司の家の前にいた。

 玄関に着くと靴が五つ、いや淳司のも入れて六つあった。
「あら、卓ちゃん。どうぞ上がって。まあ、今日はお友達がいっぱい」
淳司の母親だ。優しそうな表情でにこやかに出迎えてくれた。上品で奇麗な母親だった。でも僕は苦手だった。なにか堅苦しい感じがしたし、それにこんな清潔そうな感じの女性が住んでる家なんて自分が上がっただけで汚してしまうような気がした。僕はそそくさと頭を下げて階段を駆け上がった。広い二階の廊下を行った一番奥の扉を開けると、淳司の部屋にみんながたむろし、わくわくした表情でディスプレイを見詰めていた。


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