「幾ら何でも仕掛けが単純過ぎだよ」
由紀が眉を顰めて笑った。髭おじは「あん?ああごめん」と言いながら頭を掻いていた。僕は社の裏手から歩き出し、二人のいる境内の真中まで行った。「ほら見ろ!天狗なんている訳無いじゃないか。髭じいだ」と由紀を責めようと思ったのに、由紀はといえば目をきらきらさせて髭じいを見詰めていた。
「あー面白かった」
由紀の言い方はまるでお化け屋敷から出て来たみたいだった。すると一時とはいえ、本気で怖がったのは自分だけだったか、と僕は気恥ずかしくなった。
「次はもう少しましな変装してきてよ」
由紀はそう言ってから僕に同意を求めるように目配せしてきた。僕は、自分が怖がっていたことを誤魔化す為もあって、首を何度か縦に振った。
「わははは。お前らは仲のいい兄妹だの」
と髭じいが大声で笑った。そして
「ご褒美にもっと良いことを教えてやろう」
と囁いた。
「いいかお前達。誰にも言ってはいかんぞ」
どうせ誰もいない境内なのだから、普通に喋ればいいのに髭じいはわざと小声で話した。だから僕らは髭じいの口元へ耳を突き出した。その僕らの耳元に向って髭じいは更に小声で言った。
「満月の日、月が上がり始める頃にこの鳥居をくぐるんだ」
「どうなるの?」
由紀が再び目を輝かせた。が、髭おじはニタニタ薄笑いを浮かべるばかりでなかなか答えなかった。僕は、どうせいい加減な話だろうと思った。ろくに働きもせず毎日家でごろごろしているような男だ。さっきの天狗だって結局インチキだったじゃないか、と。つまり真面目に聞くだけ時間の無駄だと感じていた。しかし由紀の方は期待に頬を紅潮させていた。
「ねえ教えて」
「ふふふ秘密だ」
なんだやっぱりそうなるんだろ、と僕は思った。
「どうせ何にも無いんだろ!今日みたいにさ」
僕が我慢しきれずそういうと、それまでにこやかだった髭おじの顔が急に険しくなった。怒らせてしまったかもしれない、と僕は急に怖くなった。しかし髭おじは怒った訳では無く、単に困っていたらしい。眉間に皺を寄せていたのは考え込んでいた為のようだった。髭おじはしばらくそんな顔をした後、一人ごとのようにボソっと呟いた。
「ねがいがかなう」
僕と由紀は顔を見合わせた。髭おじは「願いが叶う」と言ったらしい。僕は少し考えて、それから腹が立って来た。よく考えれば、いかにも子供騙しのインチキらしい話だ。しかし由紀はそうは思わなかったらしい。
「願い?」
「ああ願いだ」
「なんでも?」
「ああ」
由紀の髭おじの会話を聞いてて腹立たしくなった僕は髭じいに意地悪を言ってやろうと思った。
「じゃ、ゲーム欲しいって願えば貰えるの?」
「え?ゲーム?それはちょっと」
「駄目なの?じゃ、意味ねーじゃん!」
「う!ああ、もしかしたら叶うかも知れん」
「なんかまた嘘っぽいな」
僕が睨むと髭じいが俯いた。僕は知らぬ間に髭じいと自然に話していた。あれほど怪しい、怖いと思っていた髭じいと、まるで旧知の仲のように話していたのだ。そんな僕と髭じいを由紀が微笑みながら見ていた。
「次の満月っていえば・・・」
「来週の今日あたりだの」
「卓巳、来週の今日また来ようよ」
僕は困惑しながらも、嬉しそうな顔で笑う由紀に向って頷いていた。

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