マサ兄は僕らを見て少し驚いたような顔をした。もっとも由紀と僕が髭じいと一緒に帰ってくるなんて確かに不自然だ。角の家の婆さんが見たら驚くだけじゃ済まなかったろう、下手をすれば誘拐だなどと騒ぎ立てたかもしれない。
「ちょっと髭じい。なんで頭掻いてんのよ?」
由紀が髭じいを問い詰めるように言った。髭じいは「いや、なんでも」などと誤魔化していたが
「毎日、頭洗ってる?虫が湧くよ!」
と由紀が叱り付けるように言うと「へへへ」と頭を下げた。でも僕はそんな由紀と髭おじのやり取りがぜんぜん耳に入らなかった。さっきマサ兄が見せた驚いた顔がなんだか妙に気になったのだ。いや、それだけじゃない。暗がりの中で僕らに気付いた時の驚きの顔、その直後に髭じいと顔を見合わせた瞬間を見せた意味ありげな顔。それらはマサ兄が初めて見せるものだった。しかしその時の僕は、その意味が分かるほど大人では無かったのだ。
 マサ兄は訊かれてもいないのに
「水道メーターを見に来たんだよ」
と言った。僕はそれが、彼が今ここにいる理由の説明なのだと気付くのに少し時間が掛かった。しかしそんな僕の違和感を揉み消すように、すかさず髭おじが
「そうか正夫、水道課だもんな」
と切り替えした。するとマサ兄がホッとしたような表情で「ああ」と頷いた。
「そういえばマサ兄と髭おじ仲いいよね」
唐突に由紀が言った。確かにそうだ、と僕は言われて始めて気が付いた。土日にマサ兄が僕らの家に迎えに来る時、あるいは送りに来た時、袋小路で二人が立ち話しているのを何度も見かけたことがある。
「なんで?知り合い?」
と由紀が問うと
「同級生だよ」
とマサ兄が答えた。
「え?同級生?髭おじと?だって全然歳が違うように見える」
由紀が驚いて見せた。すると二人は「こいつが老けてるんだよ」とか「こいつが若作りし過ぎだ」などとふざけ合うように言った。いつの間にかマサ兄は普段のマサ兄に戻った、と僕は思った。さっきのマサ兄は普段と少し違って見えていたのだ。

 それからマサ兄は僕らの頭を順番に軽く撫でた。
「帰るの?」
という由紀の問いに
「うん」
と頷いた。マサ兄は僕らに広い背中を見せて歩き出したが、少し行ったところで急に立ち止まり振り返った。
「今度の土曜日、釣りに行こうか」
マサ兄が言い終わるか終わらないうちに僕らはわーっと歓声を上げていた。ガアアア、っと音がした。どこかで引き戸が開けられた音だ。角の家の婆さんだろう。暗がりから子供の声がしたので驚いたのかもしれない。髭おじが「おお、くわばら、くわばら」と何かを拝みながら自分の部屋に歩いて行った。彼は角の婆さんが苦手らしい。
 僕らはマサ兄の後姿が見えなくなってもしばらくの間、マサ兄の帰った方向を見詰めていた。
「家に寄っていけばいいのにね」
「ああ、本当。マサ兄が毎日いればいいなあ。いっそ父ちゃんと替わって貰いたいよ」
暗がりの中で由紀が頷くのが分かった。僕らは本気でそれを願ったのだった。


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