※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)

「心が何だというのだ?」

本心から分からない、という表情で首を傾げて見せた。伸一は怒り心頭に達し、会場に響き渡るような大声で叫んでいた。

「心が無ければ芸術とは言えないだろ!貴様だってようやく心を理解するようになって最近、評価されるようになったんだろう?」

「心?芸術?・・・何を言わんとしているのかな?俺は芸術に心を必要としたことなどないが」

「何言ってるんだ?貴様!芸術ってのは音楽を愛する心とか、楽しむ心が生み出すもので・・・」

「音楽を楽しむ?」と雅之は口に出してから、小首を傾げて見せ、

「ふふふ、俺にはそんな幼稚な理屈は理解できんなあ」

とあしらう様に言った。

「な!な」

伸一は動揺した。子供の頃から繰り返しずっと考えていた侮辱の言葉をこうも簡単に受け流されようとは考えても見なかったのだ。

「楽しむのが芸術とはな、まるでおまえの論理はアマチュアだ」

「く!なんだと!」

「自己満足を客に押し付けるのが芸術か?」

「ぐぐ!」

「客はな、プロの磨き上げられたテクニックを聴きに来てるんだ。奇跡のような神懸かり的なテクニックをな。心などテクニックに比べればなんと不安定で自己中心的なものか・・・まあ素人の内輪受けがいいとこだな」

雅之を侮辱する筈だったのに、逆に侮辱されている。伸一は全身が怒りで震えるのを感じた。しかし何かを言い返そうにも、何も思い付かない。焦るほどに頭が空回りするのを感じた。それでも心の奥底から恨み言を吐き出さんとしたその時、雅之はふいに視線を伸一から外した。

「おや?こちらは、ふふふ・・・のだ、めぐみさんだね」

「ええー!わたしの名前知ってるんですか?」

「ああ、今プラハではちょっとした話題だからね」

「ええ!私がー!?ほんとですかー?」

「あーほんとだとも。ぼくもね、君の演奏聴いたよ、DVDだがね。しかし良かったー。今時の若者とは思えないほど個性的で」

「ありがとうございます。あのーところで、どちら様なんでしょうかねえ?」

さすがの雅之もめぐみの天然ボケにはやられたらしい。う、うっと言葉に詰まった。

「千秋雅之。伸一の父親でーす」

「あ!ミルフィー!」