※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)

「のだめちゃーん。そして伸一。お久しぶーり」

「何が久しぶりだ。つい二日前まで一緒だったじゃねえか」

「伸一!つれないことを言うもんじゃあーりません」

「あ、ミルフィー。これ」

「おー!羊羹ですねー。ありがとうのだめちゃーん。それより私腹ーが立ってマース」

「腹が?なんで?」

「伸一!おまえの親父にでーす。やい、千秋まさゆーき!貴様、今日の主役は私だーと知ってますね!その主役の私より目立つとは何事でーすかー?」

「主役ったって、名簿の一番上に書かれてるってだけだろ」

「一番上に書かれてるってことはー、一番偉いと言うことなんでーす」

「一番のジジイが一番上に書かれるもんなんだよ」

「ったくほんとに失礼な奴!今日の参加者、オンナの人はみんな美人、美人、美人。美人ばっかり。その美人がみーんな貴様ばっかり見ーてる!」

「仕方ねえなあ。俺は二枚目だからな」

「ほんと昔っから失礼な奴でーす!その上オンナ癖もわるーい」

その通りだ。と伸一は思った。雅之といったら伸一の子供の頃の記憶だけでも、まずは美人と評判の女流演奏家から始まり、美貌を武器にした女優は勿論、ファッションモデル、テニスプレイヤー、新体操の選手、ビーチバレーの選手、アマレスの女王まで、それこそヨーロッパ中の女を手篭めにした日本男児の恥晒しのような男だ。もっともその意味ではシュトレーゼマンも同じ穴の狢といえるが。

「まったーく、親子揃って私からオンナたちを奪って!女性のみなさーん、気を付けてくださーい。この親子の半径2メートル以内に近付くと妊娠させられまーす!」

「おいジジイ!オレまで一緒にするな!」

と伸一が叫んだ時はもう遅かった。女性の参加者達が一斉に千秋親子に向かって押し寄せて来たのだ。

「おー!みなさーん。私の言ってる意味が分からなかったのですか!?半径2メートル以内に入ると妊娠させられちゃうんですよー。よー。よーい。おい、させられたいんか?」

雅之と伸一は女性の群れから逃れようともがいた。

その時、ようやく開会を告げるベルが鳴った。雅之と伸一の周りを取り囲んだ女性達は、自分達のテーブルに戻り、いつもの国際的な奏者の顔に戻っていた。伸一が一番若手ばかりが集まるテーブルに付くと背後から声を掛ける者があった。ジャン。プラティニ国際指揮者コンクールで伸一と優勝を争った若手指揮者。ビエラの愛弟子でもある。プライドは高いが心根の良い青年だった。伸一が今あるのも、ジャンという好敵手と相まみえ、切磋琢磨した結果といえる。

「千秋ー、ひどいじゃないかー。やっぱり千秋雅之は君のお父さんだったんだね。まったくシュトレーゼマンの時だってミルフィーホルスタインとか言って、ほんと君はジョークがきついんだから」

フランス人の彼らしく明るい調子で話し掛けてきた。

「ところでめぐみちゃん凄いね。あのネドベド国際音楽祭でのエキシビジョン。今、かなり話題になってるよ」

「ああ、さっきも誰かに褒められてた」

「なんだか凄いよね。僕からすれば千秋の実力だけでもびっくりだったのに、その上めぐみちゃんがあれだもの。ほんと日本でどんな凄い勉強してきたんだい?」

教えてよ、と微笑みかけるジャンを余所に伸一は何か釈然としないものを感じ始めていた。

『その上めぐみちゃん?その上?』