※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)



『う、う、う、またあの夢か。

「夢ではない」

な?何?誰だ?

「ふふふ、それは秘密。だがいずれ分かる。それもかなり近い将来」

貴様は誰だ。う、う、オレの知ってる奴だろ。間違いない。だが、誰なんだ?

「さあ、誰でしょうねえ?」

ふざけるな!ああ!ばさぁ!とかってまた黒いマントを翻して、何をしに着たんだ?

「分かってるだろー?いただきに着たのさ」

いただきに?何を?

「何をって、おまえの一番大事なもの」

オレの一番大事なもの?音楽?あ!なんだおい!笑ったな?

「いいのかなー?そんな勘違いしてて。ほんとにいただいちゃうぞー」

え?勘違いって、何のことだ?

「あーしょうがねえ奴だなあ相変わらず。おまえの一番大事なものってなあこれじゃねえのかい?」

ああ!おいのだめ!貴様のだめをどーする気だ!

「いっただきー。じゃ、そういうことで。はははははは」

おい!待て。こらぁああああああああ』

「先輩、どうしたの?」

伸一はめぐみの声に起こされた。窓からは瞼を開くのも眩しいほどの陽光が差し込んでいた。

「今、何時だ?」

「もう七時ですよ」

「七時か・・・」

伸一はなんだかほっとした。めぐみがすぐ隣に寝ているではないか。

「先輩なんか最近、寝言が凄いですねえ。怖い夢でも見てるんですか?」

「あ?ああ、ちょっと」

そう答えをはぐらかすと伸一は上半身を起こし背伸びをした。

「今日はプラハの街を歩いてみよう」

「え?そっか先輩子供の頃住んでたんですもんね」

そうさプラハはオレにとって第二の故郷、まさに庭みたいなものさ、と伸一は誇らしげに思った。欧州で、いや世界もっとも美しいと言われるこの街に再び帰ってきたことに悦びを感じていた。いい気分転換にもなる、と思った。このところ毎日おかしな夢を見る上に昨夜は思いがけず父にあってしまい、精神的に疲れてしまっているらしい。伸一はベッドから立ち上がると窓辺に向かって歩いた。近付くほどに広がるプラハの街並み。窓際からは眼下に美しい街並みがそれこそ印象派の絵画のように広がった。

「ところでプラハの特産品ってなんでしょうかねえ?気候からするとやっぱり焼き栗とか、胡桃菓子なんかでしょうか?それともカステラみたいな?なんだかこの街の建物ってみんなカステラみたいな形してますもんねえ」

「おまえは食い物ばっかりかー!」

伸一は芸術的な気分を台無しにされたお返しにめぐみにラリアットをお見舞いした。ボカっといい音がしてめぐみがひっくり返った。ちょっと暴力的かと思うが甘やかされて子供のまま大きくなっためぐみに大人の嗜みを憶えさせるにはこのくらいでちょうどいい、そう思い伸一は満足げにめぐみを見下ろした。ところがめぐみは神妙な顔をして伸一を見上げ、口を尖らせながらこう言ったのだ。

「国のお父さんとお母さんとお爺ちゃんとお婆ちゃんにお土産送ってあげようと思ったんですよー。それなのにシどい」

「え?ご両親にお土産?そ、そうか、それは悪いことしたな」

「だからちゃんとそういうとこも連れてって下さいよ」

伸一は思わず頷いてしまった。

そうして伸一はめぐみを繁華街に案内することになったのだ。しかし繁華街に着いた途端めぐみはアイスクリームやらクレープやら特にプラハで無くとも、いやむしろ渋谷や原宿の方が本場ではないかという食い漁った。

「やっぱり食い物が目的だったじゃねーかー!」

口の周りを生クリームやらマロンクリームやらでべたべたにしためぐみに伸一はカバンを振り上げた。ボゴっと音がするくらい殴ってやらなきゃこいつは分からん、とばかりに振り下ろす。いつもならこれで十分な手ごたえが感じられ、めぐみが「あれ〜」と叫びながら横に吹き飛ぶ筈だった。ところが今日に限ってカバンはスカっと宙を切った。伸一が「あれ?」と首を傾げながら確認すると華麗にカバンを避けためぐみが笑いながら立っていた。

「もう怒るとすぐ殴るんだから。悪い癖ですよ。でもワンパターンだから慣れちゃった。簡単によけられますよ」

「ワンパターン?」「簡単によけられる?」伸一の頭の中をめぐみの言葉がぐるぐると回り始めた。めぐみに見切られてしまうなんてなんという屈辱!伸一は再びカバンを振り上げた。すると突然、後ろから羽交い絞めにされた。誰か分からない。いや、間違いなく知らない男だ。強盗だろうか?と伸一は必死で後ろを振り返ろうとしたが、羽交い絞めにする腕は驚くほど力強かった。

「やめろ!貴様誰だ!何をする?」