※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)



「ところで、峰たちはいつ来るんだ?」

「来週です。ちょうど私たちも向こうへ戻る週だし、先輩もまだお休みだし、夫婦揃って皆さんを出迎えましょー」

「まだ夫婦じゃねえ!」

伸一はめぐみの後頭部を小突こうとして思い止まった。慌てて周囲を見回し、誰も見ては居ないのを確認するとほっと胸を撫で下ろした。まったく、すっかり調子が狂っちゃうよ。プラハはオレの故郷の筈なのに・・・伸一はがっくりと肩を落とした。
「ねえ、先輩が子供の頃住んでた家ってどの辺りなんですか?ここから遠いの?」

突然のめぐみの言葉に伸一は我に返り、そういえばと辺りを見回した。この辺りは中心街から少し離れた郊外、ここからならそう遠く無い、タクシーで十五分くらいといったところか。伸一がそれを口に出して言うとめぐみが

「行ってみたいですよ!先輩の育ったお家へ」

とはしゃぎだした。そうだな、オレも行ってみたい。あの家は、母から聞いてるところだとあれから誰も借り手がつかぬままだという。だったらオレが住んでた頃のままじゃないか!伸一も小躍りする思いだった。

「いったいどういう家で育ったらこういう歪んだ性格になるのですかねえ?のだめがとくと見て差し上げますよ」

「誰の性格が歪んでるってんだ!」

伸一はめぐみの後頭部にラリアットをお見舞いしようとして、再び危うく思い止まった。めぐみが伸一の周りを飛び回りながら

「へへーん!プラハは平和でいいですねえ」

と得意げに笑うのを忌々しげに見詰めながら伸一は

「こっちだ。表通りでタクシーを拾う!」

叫んでから

「なんならおまえ、タクシーの後を追って走ってくるか」

とわざと冷たく言い放った。

「またー意地悪言ってー。だからカズオって言われるんですよー」

ふん、例のプリごろ太とかいう訳の分からんアニメの登場人物、主人公ごろ太を徹底的に苛める悪者キャラがオレ様に似てるだと?伸一は再び怒りが湧き上がるのを感じた、がその時

「へい、お待ちどー」

という露天の果物屋の女主人の声に伸一は我に返り握った拳の力を抜いた。まったく今日は何回こんなことを繰り返せばいいんだ!伸一が心の中で嘆いているところへ、ちょうどタクシーが着た。二人が乗り込みタクシーが走り出すやめぐみが

「いいところですねえプラハは。カズオには不似合いの場所みたいですが。ぷふふ」

などと火に油を注ぐようなことを言うものだから、くそ!ここはオレの故郷だと言うのになんでのだめなんかにバカにされなきゃならない!と伸一は行き場の無い怒りのマグマが満ち溢れるのを感じた。

「おお、先輩、お顔が蛸みたいに真っ赤に腫れ上がってますよ。悪い毒素が回ってるんじゃないですか?のだめが吸い出してあげますよ」

めぐみがいきなり伸一の口に吸い付き、力任せに吸い込んだ。ふいを付かれた伸一は抵抗もままならず、呼吸困難に陥り意識不明となった。「落ちた」いや「落とされた」と思った瞬間にめぐみの唇が外れた。この野郎、わざとやったのか?くそ!なんで?遠ざかる意識の中で伸一にはめぐみとタクシーの運転手の会話が聞こえた。

「お二人は新婚旅行ですかー?」

「ええ、まあそんなもんです」

「情熱的な花嫁ですねー、花婿が気絶してしまいましたよ」

「ああ、いいんですよ。この人なんだか昨日からイライラしててねえ、ちょっと眠らせてしまった方が良いかと思って」

「おー!いえい!ナイスですね」

「いえー!ナイスでしょ」

阿呆かこいつらの会話は!それにしてもめぐみの奴、いつの間にチェコ語を。どうせまたプリごろ太チェコ語版とやらで勉強したんだろう。しかしやはりわざとオレを落としやがったんだな。昨日からイライラしてるか。言われても仕方ないな。まあ、このまま大人しく寝ててやるか。それにしても今日はよく寝る日だ・・・伸一は薄れ行く意識の中で自ら瞼を閉じた。