※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)




またこれかよ。予知夢?まさかな。こんな露骨な予知夢があるかよ。黒マントの男は吸血鬼で、今オレの目の前に立っているんだが、なんだよこいつの顔は。親父じゃねえか!馬鹿馬鹿しい。さっきめぐみと話してる時、予知夢だとか話してた上にもしやここ数日夢に出てくる黒マントの男は親父じゃねえだろうな、なんて考えたからだ。ちくしょー、なんてくだらねえ夢だ。こんな夢早く終わっちまってくれ。あ?ああ、おい、おいやめろ!何をする!やめろ!のだめ。おまえがなんでこいつの味方するんだ!やめろ!口に何を押し込んでるんだ!死ぬ!息が詰まって死ぬ・・・

「はいはーい!短いドライブでしたー」

めぐみの声で伸一は目を覚ました。いーや、声だけじゃない。こいつオレの鼻を摘んでたんだ。伸一は怒りに震えた。

「死ぬだろう普通!眠ってる間に花摘まれたら!」

「今だけですよー摘んだの」

うっく!伸一は返す言葉を飲み込んだ。夢というのは一瞬で長いストーリーを見るらしい。今見た忌々しい夢も、起き抜けの一瞬で見たものかもしれない。

「ああー!あのお家ですかー?すごーいお屋敷って感じー」

タクシーを降りためぐみが叫んだ。めぐみが指す方向を伸一が見ると、そこに紛れもない伸一が子供時代を暮らした家があった。

「ところでおまえ、なんであの家だって知ってるんだ?」

「え?あの、眠ってる間にちょっと催眠術で・・・そしたら門のてっぺんに鉄製の風見鶏が立ってるって」

「こいつ!人を眠らせていろいろ自白させやがったな」

「そんなー、ちょっとリラックスさせてあげただけですよ。催眠療法ってね」

「他にも何か聞き出したろ!」

「何も無いですよ」

めぐみは、ないない、と叫びながら門に向かって走った。ふいに風見鶏が向きを変えた。それとともにのだめの髪がたなびいた。風が吹いたらしい。伸一は石造りの高い壁の上から覗く空を眺めてみたが、ただ青い空が広がっているだけだった。

「伸一ー!伸一でしょ!大きくなったわねー」

ふいに声を掛けられ振り向くと見知らぬ中年女性が立っていた。誰?と伸一は自分の記憶を手繰りながらしばらくその女性の顔を眺めた。自分の記憶を手繰りながら。典型的なチェコ人の中年女性の顔はたちまちに伸一の知る顔に蘇った。

「マルチナ!」

「まあ、憶えていてくれたのね」

「忘れる訳無いじゃないか。のクネドリーキは今でも時々思い出すよ」

「嬉しいこと言ってくれるじゃない」

「わあークネドリーキ、わたしも食べたーい」

めぐみがクネドリーキ?なぜ知ってる?まあいい。こいつは真面目な話は何も知らないが、世界中のくだらない情報は全て知っている奴だ。ことに食い物のことなら恐ろしいほどの知識を持っている。そう伸一が考えている間に、マルチナが門の施錠を解いた。

「さあさ、中へ入って頂戴。あなたの家へ」

マルチナが二人を屋敷の中へと案内した。石造りの広いエントランス。ホールのように天井の高いそこから壁伝いに二階へ向かって幅の広い階段が、正面には屋敷の奥に向かう廊下が伸びていた。

「わお!なんだかホテルみたい」

めぐみに微笑み掛けられ伸一も笑った。

「この奥がほら、伸一あなたの部屋よ」

マルチナが廊下の奥を指差した。そう、廊下の一番奥で一つだけこちらを向いている部屋がオレの部屋だった。伸一は懐かしそうに真正面に見えるドアを眺めていた。ドアの真ん中には、相変わらず「S」の文字を象った木製の壁掛けが掛けられていた。子供の頃伸一が初めてこの家に越してきた時マルチナが掛けたものだ。まるであの頃のままだ、伸一はまどから覗く景色にも満足を感じながら一歩一歩自分の部屋に向かって歩いた。

「ぎょへ!!」

突然、めぐみの奇天烈な声が響いた。

「なんですかこれ?」