※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)



「旦那様!ご夕食の準備が整いましたよ」

懐かしいマルチナの声。うーん悪くない。伸一は名残惜しそうにその穴に触れるとキッチンに向かった。シチューの香りが漂ってきた。テーブルを見ると典型的なチェコの家庭料理が並んでいた。

「上手そうだな」

「伸一が好きだったものばかりよ。沢山食べてね」

その晩餐はプラハに来て以来初めて伸一を心の底から癒してくれた。これだ、オレはこれを求めてここに来たんだ。ああやっぱりプラハはいいなあ。ほんとに懐かしい。伸一がそんな満ち足りた気分を満喫しているとマルチナが「そういえば」と何事か思い付いたようだ。

「ちょっと開けるわね」

マルチナがビロードのカーテンを開けると夜空が広がっていた。

「わあ、綺麗な星ー」

「違うのよ。あれあれ、あれ見て」

マルチナが指差した窓の端を見ると、すこし離れたところに建つ小型の城が見えた。それはそこだけ高台になっているらしく、ほかの家並みの屋根の上に浮かんでいるように見えた。

「伸一、あれがお父さん館よ」

マルチナが指差した。

石造りの城はやはり石造りの高い塀を持ち、外部からの侵入者を厳しく拒んでいるように見えた。唯一外界との繋がりを保つ為の門は硬く閉ざされいる。門の前に橋が立てかけられているのを見ると、城の周りに堀があるに違いない。出入りの際以外は橋を外し、誰も城に侵入できないようにしているのだ。なぜそこまでする?あいつは何を考えてる?伸一の脳裏に昨夜の父の姿が蘇った。

『俺は神の技を手に入れた。神の領域に達したのだ』

パーティーからの帰り際、父が残した謎の言葉。まさかあいつ、神のごとく人間界との交流を絶ったつもりか!唯一、コンサートの時だけ降臨し、人間に神の歌を聞かせて見せようというのか!不意に何処からかカラカラという乾いた音が響いた。

「なんですか?」

めぐみが怯えるように言ったのと同時に、城の周りに幾つものライトが灯った。地面から城を照らし上げるようなライトは城の威容を映し出した。そして驚くことに

「ひ!蝙蝠のマーク!」

めぐみが叫ぶとおり巨大な門全体に巨大な蝙蝠の絵がライトによって浮かび上がったのだ。あの印は、なんだ?なんなんだ?伸一が困惑しているとめぐみが

「おおデジャブ!」

と叫んだ。伸一はめぐみの言葉に更に驚いた。こいつ、なんで知ってるんだ?

「おまえさっきタクシーの中でオレが眠っている間にインチキ催眠術で何を聞き出したんだ!」

「してません、そんないろいろなんて。ただちょっと最近魘されてる夢の内容を・・・」

めぐみの頭をぽかりとやってる間に再びカラカラという音が聞こえてきた。伸一もめぐみも音の出所を探るように辺りを見回した。

「風見鶏よ」

ふいにマルチナが呟いた。伸一とめぐみは窓から風見鳥を探した。この家の門の上に立つそれは容易に見付かった。それは左右にクルクルと動いていた。

「風見鶏が回ってるの。でもこんな時間に風なんて吹かないのよ。それが決まって今頃になるとカラカラって回りだすの。まるであの城を指すようにね」

たしかに城の方を向かんと必死で蠢いているようにも見えた。

「風見鶏がね、あの城を指すと決まって現れるって近所のみんなは言ってるわ」

「何が!?」

「ふふふ、悪魔よ。蝙蝠の印を背負った悪魔」

「ひいいいいい!」