※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)


めぐみが悲鳴を上げたその時、城の木橋がこちらに向かってゆっくりと降りてきて、堀の向こうとこっちを渡した。同時に巨大な門がゆっくりと開いたのだ。突如鳴り響くエキゾーストノート、凄ましいばかりの車の排気音だ。それから何かが破裂したような勢いで門から飛び出してきた。それは猛スピードで橋を渡る。派手なオープンカーだった。乗っているのは一人の男。真っ黒ないでたちに真っ黒なマントを羽織り、風を切るたびそのマントがまるで空を飛んでいるようになびいた。

「き!吸血鬼!」

とめぐみが恐怖に震えた叫びを上げた時、伸一も同時に震え上がっていた。

『げげ!まさかデジャブ!?』

伸一が恐る恐る目を凝らすと運転する男の顔が見えてきた。伸一は「あー!」と叫び頭を抱えた。乗っているのは紛れもない雅之だった。

「くそ!なんて安易な展開なんだ」

伸一が顔を引き攣らせているとマルチナが溜息混じりに呟いた。

「趣味悪いでしょー。雅之は若い頃からピアノの才能はあったんだけど趣味がちょっとね。あの格好で夜な夜な真っ黒なマントを翻らせて夜の街に繰り出していくのよ。近所の人は若い娘の血を吸いに行ってるに違いないなんて噂してけど私はそうは思わない。だってあんなおかしな格好した人に引っ掛かる女なんていないわ」

まったくその通りだ。三人が見守る中、伸一はスポーツカーのスピードをぐんぐん上げ、夜の街に消えた。大地を切り裂くような凄さましいエキゾーストノートを轟かせながら・・・

「うるさいわねえ!また千秋さんだわ!もう町内会長に言っておかなきゃ、夜中にエンジンふかすのやめさせてって。もう、おちおち寝れしない」

隣の家の奥方が苦情を言う声が窓越しに聞こえてきた。

「ふー!と、いうことで皆さん、寝ましょう」

のだめの言葉に、なんでおまえが仕切るんだ、と伸一はムカッとしたが確かにこれ以上起きていてもろくなことが無さそうだ。だいたいこの屋敷はいつお化け屋敷になったんだ!と思うと腹が立って来た。しかし、親父に対する近所の苦情がこちらに来るまでに寝てしまうに限る、伸一ものだめに同意した。

「わお!」

マルチナがアメリカ人のような声を上げた。

「二人は新婚さんだもんね。邪魔者は早く退散するわ」

おい!まだ新婚じゃねえ!伸一がそう言う間にマルチナは片付けをし、

「それじゃ良い夜を」

と意味深な言葉を残して去っていった。