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※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。
(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)
「ふふふ、やっと二人になれましたね。伸一さん」
めぐみが満面の笑顔を湛えながら迫ってきた。
「やめろ!落ち着け!」
伸一は自分の首に回り掛けためぐみの腕を払い除けた。ハァハァと肩で息をする伸一。なにかおかしい?伸一は自分に対して首を傾げた。
「先輩?こう言うのもなんですけど、ちょっと変?」
「へ!?」
「のだめのこと嫌いじゃないですよね」
「あ、ああ」
「どちらかというと好きですよね」
「あ、ああ」
「っていうか、一応結婚してもいいかなぁ、って思ってますよね」
たしかにそうだ。オレはのだめと結婚しようと思ってたんだ、なのに、なのに。
「あのー、そろそろ素直になって頂かないとー、って思うんですけど。もしかして素直になれない理由とか、ある?」
めぐみは伸一に向かって首を傾げた。
「えー、もしや物理的理由とか、あります?」
ひ!物理的り・ゆ・う。伸一はその響きに凄さましい慄きを感じた。それは子供の頃経験した飛行機の墜落事故によるトラウマに匹敵した。まさか
!おれはまさか!ダメな男なのか!?天上界からゼウスの怒りが発した巨大ないかずちが伸一の脳天に打ち落とされたようだった。その衝撃は
インデオのトマホークのようでもありアレクサンダー・カレリンの熊をも雪原に突き刺さんとするカレリンズリフトのようでもあった。
「ストレスですかねー。まあ、ちょっと神経質ですからー、そうなりやすいかなーなんて思うんですがー。プラハに来てからのことを考えるとー、もし
かして」
「もしかして?」
「パパコンプレックス?」
「なな!」
「お父さんに対するコンプレックスが原因と思われますねえ」
めぐみはどこから用意したのか眼鏡を掛け、女医さながらに診察を始めた。
「幼少時になにか原因となるような出来事があったとかー?思い当たることはありませんかー?」
ある。あるんだ。あの部屋。あの父のピアノ練習室で、アンナとあんなことを。
「ほおーアンナとお父さんが。それをあなたは見てしまったんですねー」
ああ、見た。ってか何で心で思っただけでのだめに分かるんだ。でも、まあいいか。なんだか言ったら心が軽くなったような。
「そう、そのとおり。全部話ちゃいなさい。それで二人は何をしてたんですかー?」
何をってナニに決まってるだろ。ああ、嫌だ。思い出したくない!あんな汚らしい。
「汚らしい?汚かったんですか?」
ああ、そうさ。あんなの汚らしい。汚らしいのは嫌だ。嫌なんだ。とっても嫌。
「ふーん、それで綺麗好きになったのですね」
ああ、もうやめろ。やめてくれ!これ以上、思い出したくない。
「ダメですよ。全部思い出しちゃいなさい」
嫌だ。第一、なんでおまえに話さなきゃいけない?オレのプライバシーじゃないか!
「それが婚約者に言う言葉でしょうか?」
う!あ、ああ。そうだな、あ?でもやっぱり嫌だ。
「ふふふ、嫌でも吐かせてあげますよ。ほーら、言いたくなる言いたくなる」
やめろ!嫌だったら!
「さあー言えば気持ちよく眠れますが言わなきゃ起きることも眠ることも出来ず虚ろな世界を漂うことになりますよー」
ああ、ううう。でも、やっぱり嫌だ。
「苦しいのは嫌いでしょ。さあさあ喋って楽になりましょー」
ああ〜。伸一は何故か突然意識を失った。何時間意識を失ったのか?それとも一瞬なのか?伸一はまるで時間の感覚が失われてしまった。まるで自分一人が暗黒の次元空間に取り残され、過去も未来も上や下さえ無い世界で身動きも出来ずに浮かんでいる自分を感じていた。再び目が覚めた時、目の前を太陽が往復していた。それも左右に規則正しく。と思ったらめぐみが懐中時計を左右に揺らしてた。