※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)


『苦しい。心臓が破裂しそうだ。いや、心臓じゃない。心が引き千切られそうなんだ。なぜだ?なぜこんなテクニックに偏重した練習曲なのに、なぜ?胸が張り裂けそうに苦しくなるんだ!?』

突然、伸一は吐き気を催した。席に座っていられなくなり、床に突っ伏してゲーゲーを嘔吐を繰り返した。


あああ、、、死ぬかと思った。音楽を聴いて吐いたなんて初めてだ。なんなんだあれは?それにしても、ふー、全部吐き終わったらだいぶ楽になった。ああなんだ?なんだか気持ちいい!爽やかだな。ああ?あれ?ここはどこだったかな?花が咲き乱れている。天気もいい。甘い香りの風も吹いてきた。ああ、美しい・・・伸一が知らぬ間にピアノコンチェルトに入っていた。

ブラームス ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 作品83

オレ、何してたんだっけ?のだめとどこかへ来た気がする、それで、ちょっと嫌なことがあって、、、でも、どこだ?思い出せない。そんなことどうでもいいや。ああ、気持ちいい。このまま眠ってしまいたい・・・その時、恐るべき静寂を聞いた。なんだ?何も見えない!聞こえない!続けて襲い掛かる不安に満ちた鐘の音。そして心を翻弄するかのような大河の流れに伸一は呑み込まれた。ステージでは次曲の演奏に入っていた。

ラフマニノフ ピアノ協奏曲1番

ああ!助けて!おお怖い!恐ろしい!もう嫌だ!もう、、、、、ああお父さん。どうして帰ってこないの?どうしてぼくと遊んでくれないの?パベルだってニコラだってみんな休日はお父さんと釣りをして、サッカーをして、、、、ぼくより、ぼくと母さんよりアンナの方が好きなの?あれ?この人、アンナじゃないよ。お父さん、間違えてる。これはマルチナだよ・・・・伸一は行く筋もの涙が頬を伝うのを感じた。なんだ?オレはなぜ泣いてる?ここはどこだ?ラフマニノフ?これはラフマニノフの第一楽章じゃないか!?伸一はカ!っと目を見開いた。そこでは恐るべき楽曲が演奏され、恐るべき光景が展開されていた。

雅之とシュトレーゼマン二人の楽曲が絡まり観客を別世界に誘う・・・だけでは終わらなかった。その演奏はまるでコンサート会場の次元を捻じ曲げるかのごときパワーを発散していた。奏者の誰一人それに付いて行けず、一人また一人とバタバタ奏者が倒れていったのだ。この為だったのか!この為に百人もの奏者が必要だったんだ。それにしてもなんという演奏、、、う、う、う、また音楽が!オレの身体を破壊する・・・恐るべき演奏は伸一の頭脳を激しく揺さぶった。!う!ぐ!いけない!がががが!伸一は再び正気を失う自分を感じた。

孤独。木一本生えていない無機質な土地に一人佇む少年。誰もいない街でただ帰りを待っている。誰の?少年は佇んだままいつしか青年へと成長した。柔らだった頬は鋭角になり、どんぐり眼は切れ長に、顎には無精髭が生え始め、寂しげな顔付きは世を儚んだ微笑へと変化していった。そして突如、青年の頭上に天使が奏でた曲が舞い降りた。青年は夢中になって聞き入りついには立ち上がって天使の姿を追い始めたのだ・・・その顔はオレじゃないか!くそ!これもあいつの演奏が引き起こした幻影!なんて演奏だ!こんなの音楽じゃない!今すぐやめさせてやるー!伸一は最後の力を振り絞り、座席から立ち上がった。そして大声で叫んだのだ。

「やめろー!!」

しかし伸一の叫びは怒涛の拍手に掻き消された。それどころか、彼の叫びを真似して他の観客が口々に叫んだのだ。

「ブラボー!!」

と。