※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)


あー!という自分の絶叫で伸一は正気に戻った気がした。ここはどこだ?見知らぬコンサート会場?いや、雅之のコンサート。さっき終了したと思ったのは夢だったのか?ステージでは最後のファンファーレが演奏されていた。なんて凄さましい演奏なんだ!ホールが、オケが、ここに或る全てが破壊され尽くされるような演奏。ステージの上の雅之は鬼神のごとく腕を振るいピアノ破壊しつくさんとしてるように見えた。しかし破壊の後に新しい世界を創造するかのようなこの演奏はなんだ?単なる傲慢さか?嫌、違う、、、ああ、嫌だ。こんな奴の演奏に感動しちゃうなんて、嫌だ!思わず伸一はめぐみの手を握った。

それから何分か、何十分か後、観衆が感嘆の言葉を互いに交わしながら会場を去った後、伸一とめぐみはぽつりと二人だけで観客席に座っていた。

「お父さん、凄いですねー。スケールが大きいですよねー。もう引き込まれてしまって何も考えられなかったのに、なんでか色んなこと思い出して。子供の頃辛かったこととかー、楽しかったこととかー、あと先輩に初めて会った時のことも思い出しましたよー。冷たい廊下で子犬みたいに『たすけて』とか言って」

ふん!なにが子犬だ。あれは自棄酒を飲み過ぎて倒れてただけだ!

「なんかお父さんの演奏って、今まで考えてたのと全然違いますよねえ。どういう風に違うのかいっくら考えても分かんないんですけど・・・」

考え?てたことあったんだな。驚きだ。しかしいいとこ突いてるじゃねえか。ほんと、まるで概念が違う。たしかに凄い演奏だけど、今までオレが学んできた音楽とはまるで概念が違うんだ。伸一は打ちひしがれた思いで演奏を思い出していた。くそ!認めたくねえが、たしかに凄い。ああ、嫌だな。どうしたらいいんだろう。

「そうだミルフィーが、終わったら控え室に顔を出すように、って言ってましたよ」

「あ?ああ、そうだな」

まあ事務所の仕事とは無関係に指揮棒を振ったとはいえ、師匠は師匠。顔を出すのは当たり前の礼儀だよな。伸一はめぐみに誘われるがままに控え室に向かった。

「へーい伸一ー。疲れましたー」

いつものことだがこの人は演奏の後、精も紺も尽き果てたようにソファに倒れ込むんだよな。もっとも二時間ばかりそうしてるとまた元気が復活して夜の街で大騒ぎするんだが。そういえば父がいない?と伸一は不審に思った。めぐみも同じ事に気付いたらしく

「あれー?お父さんもう帰っちゃったんですか?」

と口に出した。

「おう!雅之ね!あいつは化け物。また練習してまーす。普通、コンサートの後は休息を取るのに、あいつはまた練習ー。限界まで疲れた時ほど人間は成長するとか言って、練習の鬼!」

練習ったっていったいどこで?と伸一が思うのと同時にめぐみが

「え?どこでやってんですかー?」

と声に出していた。

「そこそこ。その通路で」

「通路?」

いったい通路で何やってんだ?伸一は胸騒ぎを覚え、小走りに控え室を横切り通路へ向かうドアを開いた。雅之はすぐそこにいた。上半身裸で。全身汗でびっしょりだった。

「な、な、なにをやってんだ!?」

という伸一の声に気付くと、雅之は動きを止めこちらを振り返った。

「お、おー伸一かー」

「伸一かー、じゃねえ。なにやってんだ?いや、なんだそれ?気持ち悪ぃー」

雅之の裸の上半身には何本ものエキスパンダーのようなものが幾重にも絡まり付いていた。それは上腕、胸筋、肩、背筋、腹筋の至る所に絡みつき、身体の自由を奪っていた。

「ふ、ふ、ふ、これか。これを知りたいか伸一」