※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)



ようやくホテルの部屋に辿り着いた伸一は。めぐみの荷物がすっかり消え失せていることに気付いた。あのリムジンでここに寄ったのか?それとも誰かに取りに来させたのか?伸一はちょっと考えて気付いた。オリバーだな。あいつらは裏がありそうで裏なんか無い。音楽は理解不能なくらい深いけど、人間性は全然浅い。子供みたいなものだから、オリバーに運ばせるくらいしか思い付かんだろう。伸一の脳裏にはシュトレーゼマンに言い付けられオリバーがめぐみの荷物を運んでいる姿が鮮明に浮かび上がった。

ったく!バカバカしい!伸一は疲労困憊した身体と心を預けるようにベッドに倒れ込んだ。ふと何か手触りの違うものが手の平に触れた。取り上げてみると虎のマスク、つまりタイガーマスクだった。なにが虎の穴だ?くそ!ふざけやがって。人をからかう為にわざわざこんなもの置いてったのか!伸一はタイガーマスクを投げ捨て目を瞑った。一応オレの婚約者なんだぞ。それを実の父が攫ってどーする?ジジイだってなんだ?誰の味方なんだ?それにのだめだって。なぜ自らあんな奴らに付いて行くんだ。だいたいどこへ連れて行かれたんだ?あの城か!親父が真夜中に飛び出していったあの城。あんな仮想大会みたいな姿で登場するなんてどうかしてる。は!そうか!間違いない、あの城は変態の巣窟なんだ。そうに違いない!のだめ大丈夫か!あんなことや、こんなことされてるんじゃないだろうなー!伸一は興奮して思わず「あー!」と叫んでしまった。そして伸一は自分の叫び声に驚いてすぐに冷静になった。ふふふ、ま、いいか。同じ変態同士、案外気が合ってるのかも知れん。のだめだって自ら望んでいったんだ。しばらく放っておいてやるか。伸一は深い眠りに落ちていった。


ん?のだめの声だ?

「父ちゃん!おれはもうまっぴらだ!おれだって他の子供たちと同じように釣りをしたりサッカーしたりして遊びたい!」

ん?次は親父、雅之の声か?なんだか半場で働くような格好してるな。

「なにを生っちょろいことをぬかしておる!それで○○の星を掴めると思ってるのか!」

「だって父ちゃん!こんなものを身体に巻かれたらまともに動けねえよ!おれだって普通の子供みたいに遊びたいんだ!」

おお!のだめの全身にあのギブス!

「おれはもう嫌だ!こんなもの外してやる!」

「甘ったれるな!このバ・カ・め・が!」

ああ!親父が卓袱台をひっくり返した。

「そんな弱音を吐くような奴はわしの息子では無い!とっとと出て往け!」

シクシクシク

今度は何だ?ん?柱の影で髪の長い女性が泣いている。

「シクシクシク、お父さんったら酷い。のだめが可愛そう」

え?顔を上げたら、女じゃねえ!シュトレーゼマンじゃねえか!道理で金髪だと思った。

「『わしの息子じゃねえ』、、、って、だって女の子だもん」

なみーだとー汗とー若いファイトで、青空に遠く叫びぃたいー、あたっくー、あたっくー

って何歌ってやがんだー!

伸一はガバァっと跳ね起きた。ふー!幾らなんでもネタが古過ぎる!まるで昭和30年代のアニメじゃねえか。咄嗟に時計を見ると既に九時を回っていた。かすかに匂いがする。のだめの匂い。たった今、ここに居たんじゃないか?伸一は慌てて服を身に付け、部屋を飛び出した。そしてエレベータホールまで走る間に、今部屋を飛び出した瞬間の残像が蘇った。あれ?のだめ?伸一は慌てて部屋に引き返し力いっぱいドアを開けた。部屋の中央にたじろぎながら立ち竦むめぐみがいた。

「おい!なんでここにいる?」

「え?なんでって、オリバーがシャンプーとリンスと、あと歯磨き歯ブラシを忘れちゃったんですよ。慌ててて洗面所から取っていくのを忘れたっていうんです。それで取りに来て、先輩寝てる間に行こうかと思ったんですけど起きちゃって」

「バカか!おまえらは」

「ってことで私は向こうに行かなきゃですから、これで失礼します」

「おい、待て!」

伸一はめぐみの上腕を力いっぱい掴んだ。

「い、痛いですよ先輩、乱暴なのはイヤ。やさしくして下さい。それとあまり時間が無いので短めにお願いします」

「朝からなにをするってんだこのバカ!」

伸一はめぐみの後頭部にラリアットをお見舞いした。そしてベッドに突っ伏しためぐみを見下ろしながら尋問するように言った。

「おまえらどこで何してんだ?」

「どこで何をって、そりゃあ昨日お話したとおりタイガーマスクも真っ青の尻の穴で猛特訓を」

「それを言うなら虎の穴だろ!」

「あ、ああー、相変わらず細かいですねえ。そんなだからあっちの方も治らないんですよ」

「な、な!治らないって、オレは病気なんかじゃねえ!そんなことより勉強の方が大事なんだよ!」

「勉強、勉強って、そうやって逃げてばかりいるからダメなんですよぅ」

「だ!ダメ?」

伸一は目の前がぐるぐると回り始めるのを感じた。オレがダメ?このオレが、、、のだめにダメ出し?、、、伸一は気を遠くなるのを感じた。全身の力が抜け、そのまま前に、ベッドに倒れ込んだ・・・

「な!訳ねえだろ!なにがダメだ!ダメなのはのだめおまえだろ!」

伸一が枕を振り上げた間隙を縫ってめぐみはベッドからするりと降り、部屋の出口に立った。

「それじゃ先輩、しばらく留守にしますんで。わたしがいないと寂しいでしょうけど頑張ってやって下さい」

そう言い残すとめぐみはドアを開けあっさりと出て行ってしまった。くそ!なんなんだまったく!伸一はたった今までめぐみが乗っていたベッドを睨み付けた。なんだかめぐみの残像がそこに残っているような気がしたからだ。そうしてしばらく見詰めているとそこにギラリと鈍く光るものを見付けた。なんだこれは?手にとってみるとそれは長い鎖にぶら下がった懐中時計だった。あいつめ!オレが寝ている間にまたしてもインチキ催眠術を掛けてやがったな!道理でワザとらしい夢を見た筈だ。伸一はフフンと鼻で笑った。もう心配なんかしてやらねえ、こっちに残っていろいろ探してみようかとも思ったが、のだめは自分で望んであいつらの元に行ったんじゃないか。放っておこう。それよりパリに戻って勉強だ。まだまだ学ばなければいけないことは沢山あるんだ。そう考えて伸一は昨日の雅之とシュトレーゼマンの演奏を思い出した。まるで理解できない。あれが芸術なのか?しかし、、、たしかにシュトレーゼマンの言うとおり恐ろしいほど心が震えてしまったことは確かなんだ、、、くそ!でも認めたくない、、、でもあいつら何やってるんだろう?やっぱり少し気になる。

取り合えずパリに着いたら事務所に行こうと伸一は思った。エリーゼに訊けばあいつらがどこにいるか知ってる筈だ、と。