※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)



アパートメントに戻った伸一は旅行の後片付けもせずベッドに寝転がった。だいたい先々週、長い演奏旅行が終わったのだがシュトレーゼマンの打ち上げパーティに付き合わされ、すぐまたプラハへ行ったものだから演奏旅行の後片付けもまだだった。普段なら幾ら疲れていても決まりを付けないことには落ち着かない性格だから二も無く片づけを始めるところだが今日はまったくその気力が湧かなかった。ま、いいか。どうせクビになったんだし、のだめも居なくなった。しばらくオレはやることがないんだ。これからどうなるんだろうオレは?伸一は天井を見詰めたまま自分に問い掛けてみたが何一つ答えは浮かばなかった。

親父と師匠に婚約者ばかりか音楽まで取られてしまうなんて、なんてこった!でも、こんなに簡単にあいつらの思い通りになるなんてオレってやっぱりコネだけだったのかな?今までずっと自分の実力だって思ってきたけど、それだけの努力もしてきたって思っていたけどほんとは違うのかな?だいたいオレの音楽って何が良かったんだ?ほんとに良かったのか?なにか特別な技術があったか?他の指揮者を超越するような。芸術性?じゃ、あれは何だ?伸一は雅之の演奏を思い出していた。コンサート会場では激しい幻覚に襲われどんな演奏がなされたのかまるで分からなかのに、なぜか今、伸一の心の中に雅之の演奏が再現され始めた。激しい!激し過ぎるほどのフォルテシモ!速い!なんて速いんだ!リスト!これがリストか!この速さ、超人だ!ここまでテクニックにこだわるのか!いや、違う!なんなんだ?なんで心が震える!ああ、涙が零れる!人生なんだ。人生が繰り返し現れる。子供の頃の楽しい思い出、辛い出来事、暖かい母のからだ、誰もいない寂しい部屋、そしてのだめに出会いそれからいいことだらけ!ブラームス?、、、なぜだ?なぜ人生がめくるめく浮かんでは消える?ラフマニノフ。ああ悦びを歌い上げている。美しい!なんと人生は美しい!

それから伸一は何度か眠って何度か起きて、また何度か眠った気がした。それが何日間の出来事かは分からなかったが、特に分かりたいとも思わなかったから放っておいた。食事を摂った記憶は無いから多分、食べてないのだと思うが腹が減ったという感じはしなかった。もしかしたらオレって死んだのかな?なんて思ったりもしたが顎に触れると伸びきった髭がジョリジョリ音を立てたから多分、まだ生きているのだろうと伸一は思った。もっとも人間、寝ているだけでは死なないだろう、とも思った。

ピンポンピンポン

そんな静寂を呼び鈴が破ったのだ。