※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)


それも執拗に鳴らしてる。誰だ?ああ面倒くさい。出ないでおくか。ああ、でも何か急用ならいけない、、、バカ今更急用なんてあるか。でも、、、母方の伯父や伯母はもういい年だし、のだめの爺さん婆さんなんて半分棺桶に足を突っ込んでると言ってもいい、、、何考えてるんだオレ。のだめなんて自分から出て行ったんだぞ。のだめの家族の心配なんてしてどうすんだ。それに、、、オレって相変わらず几帳面。悲しいけど心配性なんだよなあ。悲しいかな親父みたいに無頼にはなれないよ、、、生まれ付いての気性だから仕方ないか・・・伸一は諦めてベッドから立ち上がり入り口のドアに向かった。呼び鈴を鳴らす者は飽きもせず何回も鳴らし続けた。まったく、そろそろ諦めて帰れってんだ、、と伸一は思いながら鍵を開けた。

「千秋!早起きの君がどーしたんだ?あれ、のだめは?」

なんだフランクか。

「ちょっとどきなさいよ!」

ターニャも居やがる。こいつらセット商品か。

「まったくプラハから帰って来たってのに、お土産も無いの?あー、これだから日本人は素っ気無いっていうか、洒落っ気がないっていうか」

「悪かったなあ。それじゃ、もう一度寝るから」

伸一がドアを閉めようとすると二人同時にドアに顔を挟んできた。ヒィイー!顔が縦に二つ並んでやがる!伸一はそのおぞましい光景に思わずドアノブを手から離してしまった。その隙に二人は部屋に侵入してきた。

「わあ、なにここ?臭ーい!わ、汗臭!」

「千秋、どーしたんだ!?君ともあろう者が風呂に入ってないのかい?わあ!よく見ると口の周りが髭で真っ黒だ!」

「やだ、ダサ!やめて!早くシャワー浴びて髭剃ってきて!」

「お、おい千秋!どうしたんだい?なにかったのかい?いや!なにかあったんだね!ねえ、のだめちゃんはどうしたんだ?どこにいるんだ?」

伸一はフランクの質問をまともに相手にせず、何も答えなかった。答えないことで余裕を見せようとした。しかしターニャがそこをズバリ突いてきた。

「フラれちゃったんでしょ」

う!伸一はぎくりとしたもののそれを悟られないように平静さを保った。

「図星ね!涼しい顔してみせたって分かるわよ。千秋、あなたのだめに捨てられたのね!?」

「バカ言え!こっちが捨ててやったんだ」

「だからあ、強がらなくていいの。ね、千秋。私、今フリーなのよ。私と付き合ってみない。きっと私たち上手くいくわ」

「いらない。オレは音楽だけで十分だ。それ以上いらないよ」

自分で言ってみて現実を思い知った。オレってのだめだけじゃなくて音楽まで奪われたんだよな。落ち込む伸一を見てフランクは本当に驚いたらしい。

「あ、千秋、、ごめん、、余計なこと言っちゃって、、、そ、そうだ!今から特別講習があったんだった、、危うく忘れるところだった、、ふー良かった、思い出した、、じゃ、じゃあね、ボクはこれで講習に出なきゃだから、これで失礼するよ、、、」

と、フランクはごちゃごちゃ言いながらフェードアウトしていった。

「まったくフランス人の男は根性無いわね!調子のいいこと言って女を口説くだけが取り柄なのかしら?」

ターニャはフランクが出て行ったドアを見詰め、それから伸一の方にクルリと向き直るといきなりシナを作り囁き掛けるように言った。

「ね、さっきのこともう一度考えてくれる?私の方はOKなんだけど」

「は?さっきのことってなんだっけ?」

「もう、いけずな人!私がフリーだってことよ」

その話を蒸し返す気か!伸一は呆れ果てターニャを睨み付けたが、彼女の顔を見て今度はドン引きした。ターニャはその気満々。満面の笑みを湛え伸一を待ち構えているではないか。こ、これはヤバい。このままじゃ何をおっ始めるか分かったもんじゃねえ!伸一はターニャの腕を掴み無理矢理出口に引き摺った。「いたいー、やめてー、千秋ったらー、乱暴なのはいやー、激し過ぎるー、このケダモノー」などと叫ぶターニャを無視して

「さあ、出て行け!」

ターニャをドアの外に放り出すと伸一はしっかりと鍵をし、念のためチェーンも掛けた。まったく嵐のような連中だ。突然進入し好きなだけ吹き荒れて、やっと去ってくれた。伸一はホッと一息付くと、壁に掛けてある鏡の存在に気付いた。酷い顔だって言ってたな、二枚目を自認する伸一は自分の”酷い顔”がどんなものか興味津々だった。どうれどんなものかな?鏡を覗き込んだ伸一は仰天した。ひ!泥棒!まるで泥棒のような風貌の冴えない男が鏡の中にいた。伸一は思わず噴出した。たしかにこれは酷い、せっかくの二枚目が台無しだ。込み上げる自虐的な笑いを堪えながら伸一はシャワー室に向かった。