※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)



いきなり来るかよ!と伸一が心の中で叫ぶ間にぞろぞろぞろぞろと峰に続いて次から次からライジングスターオーケストラの面々が部屋に侵入してきた。口々に

「ここが千秋の部屋かあ!」

「さすが家具や調度品も品がいいわあ」

バロックの香りがプンプンするね」

「いやあね!千秋様は体臭なんてありません!」

「いや、そういう意味じゃなってバロックのだね、精神に満ち溢れているという・・・」

「ああ、千秋様の体臭!胸いっぱいに吸い込んでみたいー!」

「ぼくも、千秋君の体臭が好きだー!」

などと好き勝手なことをほざきながら千秋の部屋を蹂躙した。真澄、高橋、桜、玉木、橋本、萌、薫、大河内 、、、、なんだ、みんな暇なやつらばっかじゃねえか。

「おい、おまえら。どうしてこのアパートが分かった」

「へへん」

峰が人差し指で鼻を擦ってみせた。続いて萌、薫の双子の姉妹が声を合わせてにこやかに答えた。

「私たちを案内してくれた方は、こちらです」

双子の間から眉のくっきりとした意志の強そうな青年が現れた。

「黒木君」

伸一はその名を呼び、納得した。黒木君は日本にいた頃、ライジングスターオーケストラのメンバーだったが、伸一とめぐみがパリに来たのと前後して渡仏してきた。のだめと同じコンセルバドワールの学生だ。

「やあ、千秋君。突然、峰君から電話があってね。空港に迎えに来いって」

「放っておけばいいじゃねえか」

そう言う伸一の肩に手を掛けながら峰が自慢のように言った。

「ほらほらやっぱりだろー。千秋はサディストの上に恥ずかしがりや、更にへそ曲がりの天邪鬼ときてる。こいつに迎えに来させるのは大変だぜー」

誰がへそ曲がりの天邪鬼だ!まどろっこしい。しかし伸一は、自分の心に素直になれない自分を上手く言い当てられたようでなんだか可笑しくなった。そうだな、ほんとに懐かしい。シュトレーゼマンの演奏旅行に付いて日本に行って以来だからもう半年はとっくに過ぎてる。それ以来の再会なんだからこういう時は素直に喜ばなきゃいけないんだろうな。そういえば、と伸一は考えた。のだめなんか去年、パリに来て以来だから一年以上だ・・・伸一はめぐみの顔を思い出し、溜息を付いた。

「ところで、めぐみちゃんは?」

まず黒木が気付いた。こいつはのだめに気があるからな。気付かれたも仕方ない。それでも伸一はそ知らぬフリをした。

「あらあら黒木君、のだめなんかどーでもいいわよ。むしろ余計な邪魔者がいなくてせいせいするわ!これで存分に千秋様とお話が出来るわ

ー」

目を閉じ唇を突き出してくる真澄を伸一はかわした。しかしすぐ次に

「千秋君!ぼくは千秋君が好きだー!」

と叫びながら襲い掛かってくる高橋がいた。伸一は辛うじて右手で取り押さえ、左手で投げ飛ばした。ふー、まったく。なんで男なんかに好かれなきゃなんねえんだ。伸一が、やれやれ、と一息付いていると

「おいおまえら、ふざけてる場合じゃねえ。なんか様子おかしいぞ!」

と峰が伸一に向き直った。

「なあ、千秋。なんか俺たちに隠してねえか?のだめどうしたんだよ?」

「あ、いや、別に?」

「はっきり言えよ。俺たち親友だろ。だからすぐ分かるんだよ。何か特別なことがあったんだろ?」

親友?誰が親友だ?といつもの反論をしようと思って伸一はやめた。峰は勘がいい。オレと峰が親友かどうかは別として、峰は察しているんだ。伸一は顔を上げて皆の顔を見回し理解した。峰だけじゃない。皆が察してる。話さなきゃいけないんだよな。伸一はゆっくりとソファに腰を下ろした。