※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)




伸一は語りもがなにこれまでのいきさつを話した。シュトレーゼマンに付いてのだめとプラハに行ったこと、そこで父と再開したこと、父のコンサートに行き超・超絶技巧に打ちのめされたこと、のだめが父とシュトレーゼマンに付いて行ってしまったこと、エリーゼから解雇通告を受けたこと・・・話してみればたったこれだけ。大したことじゃない。こんな大したことないことを洗いざらい喋ってしまうなんて、オレどうしたんだ?ああ、みっともない。普段のクールなキャラが台無しだ・・・伸一が皆を見回すと誰一人口を開かなかった。やっぱりな、みんなこんなオレに愛想を尽かしちまったんだろ。格好悪いものな、今のオレって・・・伸一は更なる孤独感に打ちひしがれた。その時、

「千秋様、可哀想」

小鳥が囀るようなかすかな二重奏が聞こえた。萌、薫だ。続いて

ウエッウエッウエッウエッウエッ

なんだこれ?桜か。まるで地の嘆きを唄うようなコントラバスの響き。

「僕は、千秋くんが好きだーから嘆かないでー」

なんだ!?高橋のはバイオリンの響きの方が美しい。はあ、最後は予想できる。ティンパニーか。

「千秋さまー。のだめのことは忘れましょうー」

真澄の言うことは分かってる。それが出来れば苦労しないんだよ・・・伸一は深く溜息を付いた。みんなの間抜けな反応に溜息を付いたのでは無い。自分が、自分を格好悪いと、それだからみんなに愛想を付かされたしまったと思った自分が情けなかったのだ。

「よお千秋!俺たち、お前の苦しみのさ!何分の一も分かってやれねーのかもしれねー!でもよ!心の底から心配してるってのは分かってくれよな!」

峰。ああ、分かってるよ。ありがとう。思えば、今ここにいるのもみんなこいつらのお陰。ずっと燻ってたオレにオケの指揮をする機会を与えてくれた、そして世界への扉へ向かって背中を押してくれた、それがここにいるみんななんだ。言わなきゃいけないな。心の底からありがとうと。伸一は立ち上がり口を開いた。皆に感謝の言葉を、と、その時突然イカズチが落ちた。

「やめなさいよ!みっともない」

それは部屋の入り口から轟いた。誰だ?伸一の目に入ってきたのは長身の女。彩子。彩子か伸一のかつての恋人。大学に入学してすぐ付き合い始めて四年の初めまで、丸三年も付き合った女性。思えばめぐみより付き合った期間は長いのだ・・・伸一は懐かしさと動揺がない交ぜになった気持ちのまま多賀谷彩子を見詰めた。彼女も伸一を見詰めた。ただし、睨むように。

「まったく、ヨーロッパへ行って活躍してるって聞いてたのに何、この様は?」

彩子はずかずかと部屋の中に進入し、腰砕けになってソファに沈む伸一の前に仁王立ちすると腰に手を当てた女王様ポーズで見下した。

「さっきから聞いてれば何よ!お父様に負け、師匠に裏切られ、女に逃げられた挙句、何ヶ月ぶりに再会した友人達に慰められて感動してる訳!?これは安っぽい人情モノのテレビドラマだったのかしら?」

「何言ってるんだよ!彩子!千秋はなあ!マジ苦しんでるんだよ!」

峰が必死で抵抗した。

「おまえだって聞いただろ!実の親父と信頼する師匠に裏切られのだめを攫われたんだぞ!」

「攫われた?のだめちゃんは自ら行ったんでしょ?」

「あ?ああ。でもよ、きっと二人にたぶらかされて、、、」

「は?伸一に実力が無いから愛想尽かしただけでしょ!」

「そ、そんなあ、、、身もふたもないことを、、、、」

「あたし、こういう甘えた男って大キライ!」

そう言うと彩子は出て行ってしまった。峰が廊下まで飛び出して、回り階段を降りていく彩子に声を掛けたが完全に無視された。

「お、おーい彩子ー!どこ行くんだー!あー、道分かんのかー?フランス語、喋れたっけー?」

「大丈夫、彼女は子供の頃からフランス人の専属教師に教わってきたんだ」

伸一が説明すると峰は安心し、

「そっか!なら安心だ。さすが元彼氏」

そう言ってから峰は意外なことに気付いたように笑い出した。

「よく考えればよ、千秋って隅に置けねえよな!多賀谷彩子みてえなお嬢様からのだめみてえな変態までよ。さすがロマン派を十八番にするだけあるよなー!」

ったくくだらねえこと言いやがって峰の奴。でも今のオレはどっちからも愛想付かされちまったんだよ。伸一は自虐的に白目を剥いた。

「それにしても、のだめったら千秋様を置いてどこへ行ったのかしらねえ」

真澄が顎を指で挟む得意のポーズで言った。