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※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。
(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)
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「ほんと、のだめちゃんらしくないと思う。きっと何か特別な理由があるんだよ」
のだめと一番仲がいい桜らしい.ともに貧乏して辛酸を嘗め尽くした仲だけにお互いの気持ちが分かり合えるのだろう。でも桜、今回は違う。なにも理由なんてないんだよ。ただ、オレといるより親父やシュトレーゼマンといた方が上手くなるから、ってそれだけだろう。彩子の言うとおり、オレに実力が無いから愛想を付かされたんだ。そう俯く伸一に真澄が声を掛けた。
「彩子ったらもう!千秋様気にしないで。千秋様にはこの真澄が付いてますから」
「ああー、ぼ、僕もだ千秋君。僕も千秋君が好きだー」
高橋。この二人、それぞれの楽器であるティンパニーとバイオリンの演奏はいいんだけど、悪いがオレ、男には興味が無いんだ。
「千秋さまー、私たちも応援しています!」
萌、薫の双子姉妹。ありがとう、君たちに応援されると何故かホッとする。千秋が微笑む傍らで玉木、橋本の野郎二人が嫉妬にかられていた。
「クソー!なんでいつも千秋ばっかりモテるんだー!」
ともかく千秋はライジングスターの仲間のお陰で一時の平穏を感じていた。その時突然、その平穏を破る声が響き渡った。
「ああー!うるさいわねー、さっきから。あんたたち誰ー!?」
「げ!金髪の子ギャル!?」
思わず真澄が叫んだ。ターニャだった。
「ちょっとー、あんたたち昼間っから何騒いでんのよ!ほんと日本人ってデリカシイが無いわね!」
「んまー!あんたこそなによ、その趣味の悪い格好!?」
「失礼な!これはあんた達の国、トーキョーの最新ファッションでしょ!?パリコレでも出てたわよ!」
「パリコレ?こんなの出てる訳無いでしょ!?東京、いや日本の田舎だって今時こんなダサい格好してる奴いないわよ!」
「ダサい!?んまー!失礼な!日本人ってなんてデリカシイが無いのかしら!その上ファッションセンスもゼロ!サイテー!ってより何あんた?変なオカマ?」
「まー!どこが変なオカマなのよ!?私は正統派なんです!」
「ぷふふ、正統派が聞いて呆れるわ。今時何よそのヘアースタイル。アフロ?アースウインドアンドファイヤーかしら?それとも70年代のNBAの選手?」
「失礼ねー!これは、これは、、、真澄の素敵なファッションなの!」
「へえー、写真撮る時困るでしょ。頭が全部入らなくって」
「キー!この女、殺してやる!」
「こっちこそ返り討ちにしてくれるー!」
真澄とターニャは頭をゴリゴリと押し付けあって威嚇しあった。二人の目から発せられる火花がバチバチとぶつかりあった。
「タ!ターニャ!何してるんだ!?千秋のお客様に失礼じゃないか」
フランクだ。さっきの忘れ物を取りに来たのか、はたまた特別授業なんて初めから嘘っぱちだったのか。まあまあ二人とも、とフランクはターニャと真澄を宥めながら
「ボクはフランクと言います。このアパートメントの住人でのだめと同じコンセルバトワールの学生です」
「お!おお、おお、おれはさ。千秋の親友でさ。日本でNo1のオケ、ライジングスターのコンマスやってる峰。よろしくな!」
「千秋の親友でコンマスってことは、峰君も凄い演奏家なんだね!ぼ、ぼくはまだ未熟な学生だけど、よ、よろしくね、コンマス!」
お、おお!と峰が握手の手を差し出すのを見ながら千秋は苦笑いを浮かべた。凄い演奏家がパリに観光旅行に来るかよ!ま、お互いその実力を測る場も無いからまあいいとするか。
「ところで二人とも日本語上手なのねえ」
真澄が驚きながら二人に質問した。
「のだめと千秋様に教えて貰ったの?」
「う、うん。ちょっとね。あと、独学って言うかさ、、、、」
「フランクはねオタクなの!」
ターニャの答えに皆が首を傾げた。それを代弁するように真澄が
「へ?」
と問い返すと
「だからオ・タ・ク。日本のアニメをね。毎晩、毎晩何本も見てんのよ。それで日本語も覚えたの。特にフランダースの犬なんかそれこそ毎日!もうDVDが擦り切れちゃってノイズが・・・」
「う!うるさいターニャ。ぼ、僕はね。アジア最大の先進国ニッポンの文化をだね、、、、そ、それにフランダースの犬は日本のアニメといっても宗教画の第一人者であるルーベンス作の教会画を題材にしてて、つまりヨーロッパの文化が東洋の地で花開いただね、、、」
「ねえ!オタクでしょー。いやあねえ。屁理屈捏ね回して」
「ははは!なんだか面白えな。よし、友達になろうぜ!みんな自己紹介だー!」
峰の掛け声に全員おーっ!と応じた。その影で伸一の耳元で黒木が囁いた。
「みんな相変わらずだね。なんだかフランクとターニャも気が合うみたいだね」
伸一が頷くと黒木は更に続けた。
「ところで千秋君。あのくしゃくしゃになったチラシに載ってるピアニスト、あれがお父さんかい?」
黒木の問いに「ああ」と答えてから只ならぬ気配を感じ、伸一は黒木の顔を凝視した。
「い、いや。そんな睨まれても困るけど、、、なんだかどこかで見たことあるなあ。それも最近。でも普段はプラハに居るんだよねえ。うーん、パリへ演奏旅行にでも来てたのかな?」
「ここ一年以上、パリには来ていない」
「ああ、そう。おかしいな、、、ま、他人の空似かもしれないね」
それから黒木は「めぐみちゃん、ほんと心配だね」と言って、伸一から視線を皆に移した。