※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)


あー柔らかい、、温かい、、気持ちいい、、ああ、なんだか久しぶりだ、、こんなに癒されるのは、、伸一の周りには草花が今が春よと咲き乱れ爽やかな風が火照った身体を沈めた。

ベートーベン ヴァイオリン・ソナタ 第5番ヘ長調Op.24

幸福感に満ちた明るい曲想から春という愛称で親しまれている。バイオリンが苦手だったベートーベンが、ピアノで作曲したとも言われるバイオリン曲。それにしてもベートーベンってなんでこんなに明るい曲が多いんだ。恋人にも去られ、耳も聞こえなくなって、音楽家としては暗闇の中に生きてるようなものだったのに・・・伸一は自身の周りを包む暖かい感触に再び眠りの世界に誘われた。ここはどこだったか、、、?オレは、、そっか、また飲み過ぎて、、、そうだ、峰の奴に

『千秋!そんな情けねえ千秋なんて見たかねえよ!自信満々で、傲慢で、高邁で、いけすかねえあの千秋はどこへ言ったんだよ!?』

なんて言われて、、、峰の馬鹿!お陰で飲み過ぎた、、、、ああ、それからオレは石畳に倒れ込んだ、、、筈、、なのにここはベッド?天国じゃあるまい、、?そ!そうだ、、、のだめ、のだめがあの時と、初めて会った時と同じように道端で倒れるオレを助けてくれたんだ、、、

シャ、シャー、っというレールを引く音で、伸一ははっきりと目覚めた。音の方に目をやると誰かがカーテンを開けていた。のだめ?と思ったが良く見ると体型が違う。のだめよりもっとモデル体型、、、しかも、朝の光に照らし出されたそれは、美しい裸体だった。

「う!彩子!」

多賀谷彩子が全裸のまま窓際に立ち、カーテン開け放った窓から外を眺めていた。

「おい!誰かに覗かれるぞ!」

「大丈夫、ここ最上階だもの。見えないわ」

「しかし・・・」

なんで裸なんだ?と訊ねようと思った瞬間、伸一は自分も裸であることに気付いた。

「う!」

驚きを隠さない伸一に彩子が優しく微笑んだ。普段、薔薇のように美しいが、薔薇以上に刺刺しい彩子がまるで癒し系さながらの微笑を見せたのだ。き、気持ち悪い!と伸一は思わず心の中で呟いた。そんな伸一の心中など知らないように彩子が囁き掛けるように言った。

「ねえ私たちもう一度やり直さない?」

言葉は伸一の心を深々と突き刺し、抜き差しならぬ関係が二人の間に横たわったことを伸一に悟らせた。

「今度はきっとうまくやっていけるわ」

彩子の白い裸体は朝日を浴び、神々しい輝きを発していた。伸一にはその輝きが時間を経るごとにどんどん増しているように見えた。裸体は光の洪水の中に溶け込み、光の洪水は渦を巻いてひとところに集まり始め、ついには巨大な光の玉となった。伸一が気付くと、玉はどうやらゆっくり近付いてきているらしい。まず伸一の両の足首が光に飲み込まれ、ついで膝が、腰が、胴が、首が、唇が、目が、ついには全身が光の中に埋没した。次に伸一が気付いた時、両腕で両足を抱えている自分が宙に浮かんでいた。正確には光の球の中に。

「どう?やり直せそうでしょ?」

どこからか彩子の声が聞こえた。そうだな、それも悪くないかもしれない。のだめが帰ってくる保証なんてないし、第一、のだめが帰ってくるにはあいつの音楽を越えなきゃダメなんだ。あの恐るべき演奏を。オレは越えることが出来るのかな?自信ないよ・・・幻覚を見て意識が跳んでたんだから、いったいどんな演奏だったのかさっぱり分からないんだ、、、だから、このまま彩子と、、、彩子って刺刺しいだけの女かと思ってたけど、案外優しいじゃないか、、あったかいし、柔らかい、、、このまま、ずっとこうしていられたら・・・伸一の耳にずっと遠くの方から

「ふうううん、もう、、、相変わらずなのかしら?」

という彩子の意味不明な言葉が聞こえてきた気がしたが、伸一は薄れ行く意識の中に身を委ねた。