※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)


「おい!千秋。元気にしてたか?昨日さあ、おまえにしちゃあ珍しく酔っぱらっちまうからよー、みんな心配してたんだ。おまえ、どーかしてんぞ。なんかあったのか?」

だからのだめが攫われて云々と真一は昨日話したよんどころ無い事情をもう一度説明した。

「ああー!そうだ。そうだったんだー!悪い!昨日の酒が残ってて忘れてた!」

ふ!親友だ何だと言ってみたところで、どうせ他人事だな!携帯のこちらで真一が蔑むような笑いを浮かべると、峰は携帯の向こうでそれを感じ取ったらしい。

「ああー!今『どうせ他人事なんだな』とかって思っただろ!ちげーぞ、ちげー!昨日の酒が、酒がいけねーんだ!酒が脳を漬して記憶がクルクルパーに!」

「ふん!クルクルパーはもともとだろ」

「あー!千秋。おいそれはねーだろ!親友に対してそういう侮辱した言い方は、、、」

「誰が親友だ。人の苦悩をすっかり忘れてたくせに」

携帯の向こうの峰は返す言葉が見付からないらしい。長い沈黙が続いた。沈黙してる時間が無駄に思えた真一は「じゃ、切るぞ」と言って携帯を切ろうとしたのだが、その返答の代わりに峰が言った言葉に驚いた。

「な、千秋。なんだ?この演奏?」

真一は、え?と問い返しながらCDが掛かったままなのに気付いた。音量を下げ、自分は峰との会話に没頭していたから気付かなかったが、この沈黙の間に峰に聞こえていたらしい。

「うう、、、凄い、、凄いテクニックだな、、でも、、ああ、なんだ?なんで俺ってばこんなこと、、、思い出すんだ、、嫌だ、、思い出したくないよ、、だって親父と二人で、、楽しくやってんだよ、、だから、、思い出させないで、、、ああ、駄目、、嫌なのに、、ああ、、母ちゃん、、行っちゃ嫌だ、、天国なんかに行っちゃ嫌だ、、、ははは、、母ちゃーん、俺ね、クラスで一番足速かったんだよ。体育の授業でさ、、競争したら一番なんだ、、リレーの選手に選ばれてさ、、そんでアンカーだって、、ええ、、?勿論だよ、、遅い奴らだって全然OKさ、、、みんないいとこアンだよ、、俺って勉強できねーし、、でも足一番遅ぇー中村なんかいっつも100点だしさ、、、羨ましいよな、、俺も100点とってみてえ、、ははは、、、母ちゃん、、ほんっとみんな凄ぇ奴ばっかだよな、、いいやつばっかだよな、、母ちゃん、、母ちゃ、、ええええええんん、、死なないで、、だから死なないで、、えええええんん、、、」

「分かるのか?峰」

「分かるって何が、、、」

「この演奏が分かるのか?」

「演奏?何言ってんだ千秋?演奏ってそういう問題じゃねえだろ、、、俺はさ、、思い出したくもねえ母ちゃんとの思い出を無理矢理思い出させられて涙が止まんねえんだ、、、」

「なぜ思い出した?」

「な、何故って、、ええ?何故?なんでだ?俺ってばなんでこんなこと思い出してんだよ、、ああ、音楽、、音楽だ。この、、そうピアノ、、の旋律、、凄ぇ、、なんだこれ、、、?人間業じゃねえリストの3倍のリズムで弾いてやがる、、あ、また、、もう、、いや、、やめて、、これ以上されたら、、おかしくなっちゃう」

ちょうど超絶技巧練習曲第5番が終了した。すかさず真一はCDのスイッチをオフにして携帯の向こうにいる峰の様子を伺った。

「峰、大丈夫か?」

しばらく喘ぐような息遣いだけが聞こえた後、峰の返答があった。