※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)


「これが親父さんの演奏なのか?」

どうやら峰はCDから奏でられた演奏の呪縛から解き放たれたらしい。真一が「ああ」と答えると

「俺なんかじゃとっても理解できねえけれど、凄ぇ、とにかく凄ぇ演奏だ」

と興奮気味にまくし立てた。

「ところで」

と、一通り峰の言葉を聞いてから真一は気になることを訊ねてみた。

「何か思い出してたな?ずっと昔のことを」

「ああ、子供の頃のことだ。うち、母ちゃんが死んだんだ。俺が小学校に入ったばっかりの頃、、、息子の俺がが言うのもおかしいけど、ほっんと優しい人だったんだ。俺にだけじゃねえ、俺の友達とかにも、、トロい奴とか、チビな奴とかが落ち込んでたりしてれば、みんないいところも悪いところも均等に持ってるんだよ、って、だから自分の良いところを見付けなさい、って声掛けるような人だった。だからみんなの人気者でさ、だから俺、みんなに母ちゃんが取られちゃうんじゃないかっていっつも心配してたんだ。そしてら神様が連れて行っちまったんだ」

こいつの長所は母譲りなのかもしれないな、と真一は思った。峰がいつも明るいのはこういうことを乗り越えてきたからだろう、と。

「でもなんでこんなこと思い出しちまうんだ?」

携帯の向こうで峰が考え込むのが分かった。まあいい。オレが分からないくらいだから峰に分かれと言っても無理だ。取り合えずオレ以外も、多分みんな、同じように過去のノスタルジーに浸ることは間違いないようだ。それも単なる思い出なんてレベルじゃなくて幻覚に近いものを。

「ところで千秋、今、桜が来たんだけど・・・」

突然、峰が話を変えた。が、途中で止め、携帯の向こうで桜と何やら話してるのが聞こえる。うんうん、へー、凄ぇな、千秋知ってんのかな?、うん、うん、、、などという峰のくぐもった声と、ねー!でしょー!もーびつくり!などという桜のハイトーンな声が途切れ途切れに聞こえてきた。なんだよ?早く教えてくれよ、と思いながらも真一は勤めて平成を装った。

「あのさ千秋」

峰の意味深な問い掛けに真一は「なんだ?」と素っ気無く答えて見せた。

「あのさ千秋」

だから何だよ!と千秋は叫びたかったが、我慢した。

「だからなんだよ?」

「桜が今朝、インターネットでみたらしいんだけど、のだめがさ、親父さんとシュトレーゼマンのコンサートに出演したらしいぞ」

「?」

「前座らしいんだけど絶賛されたみたい」

「ほおお、そっか」

「そっか、じゃねえよ」

峰は怒り口調で話し始めた。

「『驚異のテクニシャン現る!』なんて書いてあんだよ!のだめってそんなテクニックあったか?」