※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)


のだめ、テクニック、まるで相容れない言葉だ。たしかにコンセルバドワールでオクレール先生に師事してからはびっくりするくらい上達して、超絶技巧を必要とする曲でも見事に弾いて見せるようにはなったけど、とってもテクニシャンなんてタイプじゃない。一時、オレが孫ルイと競演したことに嫉妬して技巧に走ったことがあったけど、結局上手くいかなくて、オクレール先生からもたしなめられて、、、そののだめがテクニシャン?なにをした?あいつらのだめに何をしたんだ?千秋は全身に悪寒が走りガタガタと震え始めるのを感じていた。想像を絶する恐るべきレッスンが行われている、、、いったいどんな、、?その時、千秋の脳裡にあの父がしていた、あの超・超絶技巧養成ギブスが浮かんだのだ。ああ、のだめが全身にギブスを巻かれ、ピアノを無理矢理弾かされてる。親父が鬼のごとき形相でのだめをしごいてる、、、

『さあ!弾けー!力の限り弾くんだー!』

『ひぃー!無理でしゅー!こんな、バネでぐるぐる巻きにされてたら弾けましぇーん!』

『つべこべ言わずに弾けーえい!』

『きゅー!』

勝手にしやがれ、と真一は思った。のだめが自ら好んで雅之の元へ走ったのだ。気が合うんじゃないかな、あの二人は、と。変態同士仲良くやってればいいじゃないか、オレには関係ない。真一が首を左右に振っているところへ、携帯の向こうから峰が離し掛けてきた。

「千秋、おまえも凄いけど、おまえの親父も凄いよな。あののだめをテクニシャンにしちまうなんて。びっくりだ」

なにが凄いってんだ!あんな変態親子!親子?そう言ってみて真一はその響きが妙にしっくりくることに驚いた。ふふふまったくその通りかもな、あいつにはオレみたいな息子よりのだめみたいな変態娘の方があってるかもしらん。はははは、もうほんと心配するのも馬鹿らしいや。

「ところでさ、来週やる親父さんのパリ公演でも、のだめが演奏するらしいぜ」

「それはどこに載ってんだ?」

「ああ今、桜と替わる」

そう言って峰から桜に替わり、桜がニュースの在り処を教えてくれた。パリのイベント関係の夕刊紙が主催するニュースサイトらしい。

「あーあ、私ものだめちゃんの演奏聴きたいなー」

「聴けばいいじゃないか」

「でも、今週末には帰らなきゃなのー」

「そうか、そりゃ残念でした」

そう言うと真一はおもむろに携帯を切った。携帯の向こうで、もう!千秋先輩の意地悪ー!と桜が叫ぶのが聞こえたが真一は無視した。今は一刻も早くそのニュースサイトが見たかったのだ。携帯をテーブルに置くと隣の部屋へ。パソコンの前に座り、桜から訊いたURLの画面を開く。あった。そのニュースに掲載された写真を見て真一はギョッとした。のだめだ!しかし見たことも無いのだめ。真っ黒なドレスに紫のアイシャドー!髪が立ってる!炎みたいに!デビルウーマンか、おまえは!真一は思わず画面に向かって叫んだ。見出しには、特別出演/マドモワゼルnodaなんて書いてある。なにがマドモワゼルだ!あいつは博多の、それも佐賀県に一度入ってから戻って来ないと行けないような街の出身の、田舎娘なんだ、、、マドモワゼルなんて笑わせるじゃないか・・・真一は慌ててパソコンの電源をオフにし、窓際に向かった。無意識に何ヶ月か前そこに置き去りにした煙草の箱を探り当てていた。しばらくやめていた筈だったのだが、一本を口に運んだ。懐かしい苦味が広がった。ライターで火を付けると香ばしい香りと共に特有の息苦しさが胸をいっぱいにした。真一は窓を開き、空に向かって逃げていく煙の行方を追った。なんだかのだめがとっても遠くに行ってしまったような気持ちになった。打ちひしがれた様に真一は窓際の木の椅子に座り込んだ。