※テレビ版の「のだめカンタービレ」の続きを勝手に書いてみました。

(所謂二次小説で、本物とは一切関係ありません)



「ノン!残念ながら君のように実績の無い若者は難しいんだ」

これで三件目か。日本と違ってクラシックの音楽事務所が多いのはいいんだが、とにかく実績、実績!これじゃあ年寄りしか契約出来ないじゃないか。歴史があるのは素晴らしいことだが、その歴史が若者を拒んでるみたいだ。それに、、、今になってみれば恥ずかしいばかりだけど、プラティニ国際指揮者コンクールで優勝したっていうのがもう少し高く評価して貰えると思ってた。でも、考えてみれば2年に一度開かれる訳だから、優勝者なんて何人も居る筈だし、新人のコンクールはプラティニ国際だけじゃない。大きなものだけ上げてみてもドイツのルンメニゲ国際、イタリアのジャンニーニ新人、それにプラハロシツキー国際、、、あとロシアのモストボイ新人やベオグラードストイコビッチ新人コンクールなんかも歴史のあるコンペティション。つまり毎年何人も優勝者がいるんだ。はあ、これじゃ再就職もおぼつかないな・・・真一は歩道の脇にあるベンチに腰を降ろした。繁華街の、もうじき夕暮れが迫る時刻だ。人々が帰路に着く足取りがせわしない。ふと顔を上げるとデパートの壁に設置された大型スクリーンにニュースが流れていた。金髪の若いキャスターがグラフを指し示しながら何かを説明していた。よりによって失業率の解説かよ・・・真一はがっくりと肩を落とした。金髪のキャスターは尚も続けた。

「国外からの労働者の流入により、国民がリストラされるという皮肉な状況が進行しています」

ふん!そりゃあ悪かったな!だが、オレだって失業中だ。それもいわれ無きリストラ。だがエリーゼによれば雇用契約ではないから問題ないんだとさ。あの女のことだ、こういうこともあろうかと契約書一つまで周到に調べ上げて作ってるんだろ。もっとも初めからあんな事務所と契約するつもりは無かったんだ。オリバーに拉致されて、古い城に閉じ込められ、現れたエリーゼに、、、ああ、、思い出したくない・・・真一は両手両足を縛り付けられた状態でエリーゼに陵辱された時のことを思い出していた。あの時、真一は孫の手で一時間、脇の下をくすぐられ続けたのだった。くそ!あの女、孫の手をあんな風に使うなんて日本の文化を冒涜している!しかし真一はたった一時間で屈服してしまった自分の方が情けなかった。でもこれでようやくあの事務所から開放されたんだ。あとは本当の自分の実力でなんとかするしかないんだけど・・・真一は改めてシュトレーゼマンの偉大さを感じた。どのオケに行っても歓迎された。いつの間にかそれが当たり前みたいに思ってたけど、それはシュトレーゼマンが誰からも尊敬されているからなんだ、、、くそ!あんな変態ジジイが、、でも、音楽は素晴らしい、、、ああ、神も仏も本当にいないのかな?なんであんなに人格が低いジジイが天才なんだ?

真一が顔を上げた先にチケット売り場が見えた。デパートの入り口の一角に売り場を構えていたのだが、映画やオペラ、演劇のポスターに混じってそれはあった。いや混じってというより真一の目にはそれだけ特別な輝きを発しているように見えた。ベンチから立ち上がり、引き寄せられるように近付いた。「Vent Bois Feu Montagne(風林火山)」と題されたコンサートのポスターには雅之とシュトレーゼマンの巨大な写真に挟まれるように、小さなめぐみの写真が掲載されていた。真っ黒なドレスに紫のアイシャドー、総立ちの髪はまるで見たことも無い異国の女のようだった。しかし写真の下には確かに「特別出演/マドモワゼルnoda」と記されていた。

「あんた、買うの?買わないの?もう店じまいなんだけどね」

太った中年女性の売り子が無愛想に声を掛けてきた。